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白き狼と白き狐と横島

その後愛子を学校まで送った雪之丞達はそれぞれに自宅に戻っていくが、一人になったピートは今日の事をずっと考え込んでいた


(横島さんが僕よりも人間を警戒して、遥か先を考えていたなんて……)

少し前までオカルトGメンに入るか悩んでいたピートにとって、横島の疑問や考えは誰よりも現実の物に感じている

確かに個人単位では妖怪を受け入れる者は居るだろうが、全体としては害がある存在として見ることが普通なのだ

横島が自分の亡くなった先まで考えてる事は、ピートから見れば当然に思えた


「人間の社会は数十年あれば変わるからな…… 将来妖怪がどう扱われるかなんて誰にもわかるはずがない」

過去の歴史を思い出していくピートは、この先も人間の社会が変わっていくと知っている

そんな世界でタマモとシロを妖怪と人間の狭間に置きたくない横島の気持ちは、誰よりも理解していた


「同族や仲間を売るのは、人間が思ってる以上に重いからね」

同じ妖怪と戦わせたくないと言う横島の言葉に、ピートはふとかつての自分と重ね合わせてしまう

父親であるブラドー伯爵の事を、ピート自身も数百年悩み続けたのだ


(僕だってブラドー島の仲間達が居なければ、父を止めようと考えなかったかもしれないしね)

ピート自身最初ブラドーを止めようとした理由は、仲間達の為であり別に人間達の正義や命の為ではない

現在のように人間と吸血鬼が共存出来る未来を望んで人間側で生きる事を考えるまでに、ピートですら数百年の苦悩があったのだ


(僅か数年で横島さんがそこまでたどり着いた事は、奇跡としか思えないけど……)

横島の悩みは自分が現在抱えてる悩みと近いものだとピートは思う

しかしピートが数百年の時間を生きてきた上で悩む事に対して、横島は僅か数年で同じ悩みを抱えている事にピートは複雑な思いであった


(解決方法がない問題で、横島さんはどんな答えを出すのだろう)

人間と妖怪という種族の壁は、世界の根本に関わる問題でもある

神族と魔族が対を成す者であるのと同じように、人間と妖怪はどこまで行っても違う存在なのだ

そんな答えのない問題で横島がどんな答えを導き出すのか、ピートはそれが気になって仕方ない


「僅か数年で僕と同じ悩みを抱えるまでになった横島さんは、この先どんな未来を見るのかな」

自分のような人外の心を理解する人間である横島が、この先どんな未来を描いていくのかピートは楽しみであり不安でもあった

それは妖怪や吸血鬼などの人外にとって、希望溢れる未来になるかもしれない

しかし人間としてはあまりに危険な考えでもある


(横島さんの中にある人間不信が心配だな…… あれがいつか横島さんの身を滅ぼすかもしれない)

横島は普通の人間が考えない事を考えるが、逆に普通の人間が考える事を考えない

その根本に関係する人間不信に、ピートは少し危機感を抱いている


「愛子さんが言ったように、僕らが横島さんに相談してもらえるようになるのが先かな」

いろいろ考えたピートだが、結局今まで何も明かしてくれなかった横島との関係を変える必要を感じていた

共に生きる友達として、せめて悩みくらいは話せる関係になりたいとピートは思う


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