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二年目の春・5

「細かい作業はやっぱ上手いな。」

翌日は土曜の休日でありのどかの誕生日でもあったが、のどかは木乃香と共にいつもの休日と同じく朝の仕込みから店に来ていた。

仕入れを終えた横島は木乃香に店売りのスイーツ作りを頼むと自身はのどかに手伝って貰いながら茶道部に頼まれたお茶会用の和菓子を作っているが、のどかは手先が器用なので二人でやると作業が早くて助かっている。


「今さらですけどこういうのって5年とか10年とか修行が必要なんじゃあ……。」

「単に技術を覚えるだけならそんなにかからんと思う。 料理全般に言えることだけど下働きとか何年もやらせるからな。 二人みたいに教えたらそこまでかからんだろ。」

和菓子作りも結構体力勝負な作業が多く横島は自分で体力を使う作業をしつつ、簡単な作業をのどかに任せて時間を節約していた。

もちろんのどかに和菓子の作り方を教えながらの作業ではあったが、のどか自身は横島に料理を習うようになってから料理関係の本なども読んで勉強してるらしく伝統ある和菓子作りを気分で教える横島にいいのかなと少し思うところもあるらしい。


「伝統とか文化は本職の人が受け継げばいいんじゃないか? ぶっちゃけると俺さ、形式とか伝統とかあんまり好きじゃないんだよなぁ。」

ただ横島は昔から形式や伝統なんかをあまり重要視してない。

実は横島の母の百合子も伝統や慣例などに拘らない性格であるし、かつて働いた先の美神令子なんかもそういうのを全く気にしなかったので横島が伝統や形式を無視するのはそんな二人の影響が大きかった。

特に他人が伝統や形式を重要視するのを否定はしないが自分には必要ないと思うところは令子にそっくりだったりする。


「それでいいんですか?」

「別にいいだろ。 うちは喫茶店だし。 俺は和菓子職人じゃなく喫茶店のマスターだしな。」

尤ものどかにしてもいい加減横島に慣れてるので驚きはないが、ナチュラルで人と違うことをしてしまう横島はやはり普通の人とは違う価値観なんだと改めて感じていた。

そんな横島なだけに第三者から見たら好き嫌いや評価が分かれるだろうし、何をやらせても目立ってしまう原因の一端が少し分かった気がしたのだ。


「和菓子にクリームとかでデコレーションするの横島さんくらいやから。」

ちなみに横島の店では横島が暇な時は、大福などの和菓子にクリームなどで可愛らしいデコレーションをして出す時がありこれがまた人気である。

さほど難しいことはしてないのだが斬新で美味しいと結構常連には評価がいい。

基本的にケーキを出す喫茶店はあっても和菓子を出す喫茶店は珍しいとの理由もあるし、洋菓子と和菓子両方本格的に作る人が少ないというか滅多に居ないとの理由もあったりするが。


「お客さんが喜んでくれればそれでいいだろ。」

「……そうですね。」

なんとなく人と同じことをしないことに若干の不安があるのどかであったが、横島は独自の感性で生きており真面目なのどかまでもが少しずつそんな横島に染まっている。

全体としても成績の向上から始まりのどかが横島の影響で変わった面は意外に多くあり、結果木乃香や夕映と同様に彼女もまた一般的な女子中学生からはみ出しつつあるが本人が自覚するのはもう少し先になるだろう。

横島としては素直に自分を見て好意を持つのどかを気に入ってるが故に、のどかの才能や可能性を伸ばしてやりたいといろいろ教えているのだが才能や可能性が伸びすぎることまで考えてないのはやはり横島らしいのかもしれない。

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