同時刻、学校では先生や気の早い生徒ですでに賑やかである


「卒業式ってやっぱり普段と違う空気になるのよね…」

教室で一人静かにクラスメートを待つ愛子は、卒業式独特の空気の中この数年を思い出していた


（思えば不思議なものね…　なんで妖怪の私が普通に人間に馴染んでるのかしら）

すっかり当たり前になった生徒としての毎日

学校に生まれ学校を愛して来た愛子だが、こんな未来は望むことも出来なかった

自分の中の異空間で憧れの学校生活を擬似体験していた頃を思い出すと、不思議な気持ちになる


「横島君やピート君、そしてタイガー君のおかげかしらね」

懐かしそうに微笑む愛子

憧れの学校生活は想像より素晴らしいこともたくさんあったし、想像もしないような苦しみや寂しさもあった


「これが生きるってことなのね…」

大好きな学校で大切な仲間と様々な経験をする

愛子は、今日が最後の卒業式と言うことに寂しさを感じていた


「さあ！　笑顔でみんなを送り出さないとね！」

教室に近寄る足音で現実に戻って来た愛子は、自分に気合いを入れて笑顔を作る


「おはよう！」

一番乗りのクラスメートにいつもと変わらぬ笑顔で挨拶する愛子

彼女の卒業式はもう始まってるのかもしれない



同じ頃、彼女は夢を見ていた

それは前世での偶然の出会いから始まる夢

『また会おうな…』

その言葉をくれた彼の表情が胸に突き刺さる


そして次に現れたのは、馬鹿でスケベでどうしようも無いやつ

思い出すのもバカバカしいような形で再開を果たした大切な人

いろんな出来事が走馬灯のように流れてゆく中、次に現れたのは一人の魔族の女性


『一人でなんか死なせないわ！　ヨコシマ！』

強く真っ直ぐな瞳をした魔族の女性

彼女の顔を見ると、令子は胸が激しく痛むような気がした


（ああ…　これはいつもの夢ね…）

生きてるはずの無い彼女が現れたことで、令子はこれが夢だと悟ってしまう

女性と彼の愛し合う姿を令子はただ見ているしか出来ない


（もうイヤ！　こんな夢見たくない！）

どんなに拒んでも夢は醒めないで続いてゆく


魔族の女性が亡くなってようやく取り戻した、偽物の平穏な生活


しかし、彼の瞳に令子は写ってない

まるで敵でも睨むような殺気を向ける彼と、彼を包むような魔女の女性


（サヨナラ…　横島クン…）

彼に背を向けて一歩一歩歩いてゆく令子は、恐怖や悲しみで心が張り裂けそうであった



「待って横島クン！　私の話を……」

目を開くとそこは、いつも見慣れた天井である

令子は枕元の時計に目をやりため息をはく


「全く…　毎日毎日同じ夢ばっかり…　いい加減にして欲しいわ」

一人で愚痴をこぼしながら令子は洗面所に向かう

顔を洗おうと鏡を見ると、その泣き腫らしたような顔に自分でも驚いてしまった


「私は美神令子よ！」

気合いを入れるように、鏡の中の弱々しい自分に言葉を投げかける令子

洗面所を後にした彼女は、いつもの美神令子の顔になっていた