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その二

一方、事務所に帰った横島達は素直にフェンリル退治を喜ぶことが出来ないでいた


「結果的に良かったのか、悪かったのかわからないな…」

恐ろしいまでのフェンリルの恐怖から解放された安堵感の中、横島は言葉に出来ない敗北感を味わっていた

歴史を知るがゆえに先回りして被害を減らそうと努力したが、結果的に見れば被害はあまり変わらない

唯一の成功といえばジロウを救えた事だが、逆に人狼族に未来には無かった多数の怪我人を出してしまった

その変化が偶然か必然かはわからないが、当初想定した最悪のシナリオになっている

横島達にとって今回は敗北に近い結果だった


「あまり気になされるな。 全ては犬飼の責任だ。 横島殿達は最善を尽くしてくれた。 本当にありがとう」

重苦しい空気を変えるように、ジロウは笑顔を見せて横島達を励ます

未来や現在など様々な問題があるのは何となく理解しているジロウだが、横島達が全力で犬飼を止めて人狼を救おうとしたのは良く理解している

それゆえにどんな結果であれ、感謝の気持ちは変わらなかった


「さすがのワシも因果率と歴史の改変に関しては良くわからん。 なにせデータが少な過ぎるし、横島と魔鈴は強すぎるからのう」

カオスにしては珍しく表情が冴えない、今回の件はカオスですらも後味の悪いものだった


人間と神魔の狭間のような存在である横島と魔鈴の二人は、歴史に対する影響もまた未知数な部分が多い

その強さと存在感ゆえに、何処まで歴史が変わるのか判断出来ないのだった


「やはりフェンリルのような歴史的事件は、完全に防ぐのは難しいのかもしれませんね… 今までは比較的上手く行った為に甘く見ていたのかもしれません」

悔しそうに表情を曇らせる魔鈴もまた、これからが本番のアシュタロス一派との戦いは今までより一層慎重に考える必然性を感じている



結果として今回の戦いは、横島達にとって様々な課題を残したまま終わった

しかしそんな中、父であるジロウと嬉しそうに話すシロの姿が横島達の心を癒すことになる

共に家族のように生きて来たシロが失った父と再会し、未来では得られなかった幸せを掴んだ

その結果に横島達が誰よりも喜んだのは、言うまでも無いだろう


この日から数日後、ジロウはシロを横島と魔鈴に預けたまま人狼の里へ帰ることになる


「シロ、お前は残れ。 お前の存在が、いずれ人狼族と人間の歴史を変えるきっかけになるやもしれん。 未来の長老もそれを願って、お前を人間の町に出したのだろう」 

別れの時、ジロウはシロにそう告げて人狼の里に帰っていく

それは僅かな期間だが、横島達とシロの本当の家族のような関係を見て感じたからだろう

突然精神的に成長した娘にジロウは喜びと淋しさの両方を感じつつ、自分が居なかった未来での幸せな生活を知り喜んでいた

少し親離れは早い気もするが、いつでも会えるのだと自分に言い聞かせてジロウはシロを横島と魔鈴に託す


そしてシロもまた、父と別れる淋しさを我慢して横島達の元に残る道を選んでいた

横島達が歴史を変えてまで父を救ってくれたように、今度は自分が横島と魔鈴の悲願を叶える為に共に戦おう

そんな強い決意を心に秘めたままに…


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