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白き狼と白き狐と横島

「魔鈴君、僕が知らない事とはいったい……」

知らない事があると言われた西条だが、やはり簡単に納得出来るはずがなかった


「それは私の口からは言えません。 ただ私は横島さんをこれ以上傷つけたくないだけです」

理由を求める西条に魔鈴は、困ったように自分の気持ちだけを伝える

西条と令子や美智恵の関係を考えると、魔鈴は自分が理由を話すのはまずいと考えていた

美智恵とは師弟関係だし、令子とは形だけとはいえ恋人なのだ

そんな西条が自分達の側の真実を知ったところで何も変わらないのを魔鈴は理解している

地位も名誉も恋人も美神家に密接に繋がっている西条が、全てを捨てて他人である魔鈴と横島の味方をする事は有り得ないのだ


「あれくらいで傷つくほど横島君は繊細じゃないだろう?」

一方西条にしてみれば、魔鈴の横島への態度はあまりに神経質過ぎると感じている

元々どんな扱いをされてもケロッと笑っていた横島なだけに、今日の言い争い程度で横島が傷つくなど考えもしない

昔の令子はもっと酷かったし、おキヌですらそこまで横島に優しくする事はなかったのだから


(やはり何も理解してない…… この人は人の気持ちをわからな過ぎる)

今の横島の姿や心に全く気付かない西条に、魔鈴は残念な気持ちでいっぱいだった

人々のために働く西条は魔鈴にとって尊敬するべき存在だっただけに、結局自分の事しか見えてない西条の姿は残念で仕方ない


「西条先輩。 横島さんは普通の10代と変わりませんよ。 当然傷つく事もあります。 私は西条先輩が、年下である横島さんに冷たく接した事が残念で仕方ありません」

「魔鈴君……」

悲しそうに見つめる魔鈴の表情に、西条は何も言えなかった

女性を大切にする西条なだけに、魔鈴の悲しそうな表情は心に響いている


「勝手な事を言ってごめんなさい。 ただ、私には守るべき存在が出来ました。 その為には引けない時もあります」

年上の西条に少し言いすぎたと謝る魔鈴に、西条は返す言葉が浮かばないまま作り笑顔を浮かべて帰っていく


(現実とは非情なものですね……)

西条が去った後、街の明かりや通り過ぎる車に視線を向けた魔鈴は複雑な気持ちだった

かつて尊敬していた西条の隠された真実の姿と、対する立場になってしまった事には言葉に出来ない無情さを感じてしまう


(友人としては西条先輩には幸せになってほしいですね)

GS試験の時と今回で西条に完全に失望した魔鈴だが、それでも友人としては幸せになってほしいと願っている

生きる道の違いから今後協力は出来なくなったが、その気持ちは変わらなかった


(この件はお義母さんに言わないとダメですね。 イマイチ目的はわかりませんが、何らかの美智恵さんの意図はあるでしょうし……)

友人としては西条の幸せを願う魔鈴だったが、一方で横島を傷つけた行動を見逃す訳にはいかない

百合子がこの件でどう動くかは魔鈴にはわからないが、それでも西条を庇うつもりはなかった


(またしばらくは横島さんから目を離せませんね。 さっきはかなり危険な様子でしたし……)

少し考え事をしていた魔鈴だが、店内に残して来た横島が心配になり急いで戻っていった


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