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その二

横島達が動き出した頃、令子達四人は離れた高台からフェンリルの様子を伺っていた

このまま撤退して装備や人員を整えるべきなのだが、横島や魔鈴を見捨てて行けなかったのだ


「いったい何をするつもりだ?」

遥か上空で留まる魔鈴と横島、そして地上で戦い始めたカオス達を見ていた西条はどうするべきか悩んでいる

一刻も早くフェンリルの事を各方面に連絡して対策や避難をさせなければならないのだが、彼には魔鈴や横島を見捨てることは出来ない


「あのバカ、あんな化け物に何する気?」

西条を引っ張り撤退した令子もまた、横島達が何かしようとしている事に気が付いている

しかし、それはあまりに無謀だと思っていた

どう考えても、フェンリルは人間になんとか出来るレベルでは無い


「何か始めたワケ…」

エミの声に令子達は目を懲らして横島と魔鈴を見つめた



その時、上空に居た横島と魔鈴は静かに霊力を高めていた

横島は以前作っておいた文珠を意識下から取り出し、目の前に飛ばしていく

横島が飛ばした文珠はおおよそ10個、それは円を描くように空中に止まっている


「それではいきます」

魔鈴は杖に霊力を込めて、空中に浮く文珠に魔法をかけていった

魔鈴の魔法を受けた文珠は光を放ち、その光が魔法陣を描くように規則正しく光輝いていく

そして僅か数十秒で、上空に光の魔法陣が完成する



「あれはいったい…」

突然空に現れた魔法陣に、唐巣は驚きの声をあげた

横島と魔鈴が何かしたのは理解しているが、唐巣達の場所からは文珠は見えないので突然魔法陣が現れたことしかわからないのだ


「あれは何の魔法陣だ?」

アルテミス召喚魔法陣より少し小さい魔法陣を見つめて、何の魔法陣か考える西条だが、さすがにわからない


「あれが魔鈴の奥の手なの? あれほどの魔法陣を瞬時に作り出すなんていったい…」

令子の表情もまた驚きで満ちている

魔鈴が様々な失われた魔法を使うのは知っているが、魔法陣瞬時に作れるのは予想外だった



「呪場も安定したし、魔法陣も固定した。 後はヤツが目標地点に来た時に魔法を発動させるだけだ」

一方横島は、魔鈴が作った魔法陣を維持するのに大量の霊力を消費している

さすがに超加速ほどでは無いが、呪場や魔法陣を安定させるのはそれほど簡単では無く、かなり霊力を消費するようだ


その頃、魔法陣の完成はカオス達にも見えていた


「マリア、予想地点に追い込め」

「イエス・ドクターカオス」

少し離れた場所で指示を出しているカオスの言葉に従い、マリアはフェンリルを誘導するように攻撃していく

そして同じくフェンリルの攻撃をかわしつつ時間を稼いでいるジロウも、マリアの動きに合わせるように動いて行った

この辺りは人狼族一の達人と言われるジロウだけあって、マリアの動きや行動からその意味をすぐに理解したらしい


「問題はここからだな…」

カオスは険しい表情で横島達を見つめる


フェンリルのスピードなら僅か一瞬のタイミングがズレても、亜空間ゲートから逃げてしまうだろう

かと言ってゲートを大きく広げすぎたら、関係無い物まで吸い込んだりコントロールを失うかもしれない


勝負を決するのは本当に僅かな瞬間


さすがのカオスも凄まじい緊張感の中、マリアを誘導している


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