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二年目の春・4

そしてお昼を過ぎた午後になると近衛邸には超鈴音・葉加瀬聡美・四葉五月の三名がやって来ていた。

三名が通されたのは近衛邸にある十人ほどが入れる会議室で中にはすでに近右衛門と高畑と刀子が居て、今回高畑が事実上の弁護士役で刀子は書記として話し合いの記録をする為にこの席に居る。


「さてまずは事実確認から始めたいが意見はあるかね?」

相変わらず人気の少ない近衛邸は静まり返っていて会議室の中は緊張感も相まって少しピリッとした雰囲気が支配していた。

近右衛門は正面中央の席に座り目を閉じて超達を待っていたが刀子と高畑は資料となる書類なんかを整理しており、超達が来たことで近右衛門は目を開けて始めようと声をかけるといよいよ話し合いというか事情聴取が始まることになる。


「君達の計画は研究室と地下の拠点のコンピュータのデータで全て見ておる。 正直判断に迷うと言うのが本音じゃ。 法も倫理も全て想定外のことじゃからのう。」

資料は超達にも配られ一つ一つ事実を確認していくことになるが葉加瀬は未来技術掛けたプロテクトがすでに解かれたと聞き信じられない表情を見せる。

超の方はすでに未来技術の優位性が危ういことに気付いているので大きな驚きはなく、帰国翌日に即聴取が行われると聞いた時に十中八九はプロテクトを解かれたと思っていたようだが。


「全ての責任は私にあるネ。 葉加瀬と五月には寛大な処分を。 」

近右衛門の表情には怒りも呆れもなく淡々としていたが、話を始めると何とも言えぬ複雑そうな表情で想定外だと口にする。

目の前で改めて超達を見るとどうしても幼さと未熟さが手に取るように見えてしまうのだ。

もし孫の木乃香が何かで道を誤ってしまったらと考えると非情になりきれない。

そんな近右衛門の葛藤を超が見抜いたからかは分からないが当初ハワイで考えていた駆け引きも何もかも放棄して、突然自身が持つ最後の切り札である渡航機カシオペアと未来知識や情報が入ったUSBメモリーを目の前の机に置き葉加瀬と五月の減刑を頼む行動に出ていた。


「超さん!」

「超さん……。」

「学園長先生が話した通りネ。 全ては想定外のこと。 だからこそ私は法や倫理に守られないのだヨ。」

そのあまりに潔い行動にハワイで対峙した高畑もそれを聞いていた刀子も驚き、そして葉加瀬と五月に至っては驚きのあまり思わず声を上げてしまったが超はどうやら今回の一件で一皮も二皮も剥けたらしい。

想定外とは近右衛門が言い出したことだが、超は想定外だからこそ自分達は法にも倫理にも守られないのだと自ら認め公言してしまう。

それは言葉にこそ出さないが命で償うことでも残りの人生を麻帆良に捧げることでも構わないという決意の現れである。

あえて命に替えてなどと過激なことを口にしないのは、仮に自分の命を奪っても近右衛門には何の得もないことを理解してるからだろう。

この先の歴史と麻帆良の置かれた状況を考えると、近右衛門にとって最良なのは超を誓約の魔法などで縛り麻帆良の為に働かせることなのだから。

ただそこには当然ながらこの状況で葉加瀬と五月を守り、あわよくば自分も助かる可能性が他にないという冷静な計算もあるのだが。

最早近右衛門の良心に訴えるしか超には方法がなく、駆け引きも何も選択肢がないだけでもあった。


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