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二年目の春・4

「こんな穏やかな朝はいつ以来かナ。」

同じ日超鈴音は穏やかな朝を迎えていた。

昨日は迷惑をかけた関係各所に謝罪をして、修学旅行期間には大学生に任せていた超包子に関してもしばらくは引き続き現状維持で営業して欲しいと頼んでもいる。

現在研究室は立ち入り禁止であることもあり、超と葉加瀬個人には特に制限は言われてないが二人は自主的に寮で静かにしていた。

全てが今日の午後にある裏の事情聴取にかかってる以上、今更無駄に動いて近右衛門の心証を悪くするわけにはいかない。

だが皮肉なことに超にとって何をする訳でもなく時間が過ぎるのを待つだけの朝など、いつ以来かわからないことだった。


「せめて葉加瀬と五月だけは……。」

同じ部屋では同室の葉加瀬がまだ寝ている。

気丈に振る舞っても精神的には普通の中学生である葉加瀬なだけに、ここ数日のことには身心共に疲れているのは超にはよく分かっていた。

未来においては歴史に名を残した葉加瀬だが中学生の段階では現状ほどの活躍をしたとの歴史はない。

超自身が葉加瀬を育てたとも即席培養したとも言えるが、精神的にはやはりまだ中学生なのだ。

高畑の説得から冷静に考える時間があった現状ではこれ以上足掻こうとは思わないが、葉加瀬と五月の未来だけは守らねばならないと考えている。

特に心配なのはやはり葉加瀬で本来の歴史で彼女が一生かけて生み出すような理論や技術を、僅か二年で学び理解させてしてしまったことも今になれば不安なことだった。

学問も技術も成功と失敗の積み重ねが大切であり超は自分が葉加瀬からその貴重な機会を奪った形になっていることが、葉加瀬や世界にとってマイナスに働かないことを祈らずにはいられない。


「世の中な不思議なことでいっぱいカ。」

特にやることもない超はせめて今日くらいはゆっくりしようと葉加瀬と二人分の朝食を作り葉加瀬が起きるのを待つが、ふといつだったか聞いたさよの一言を思い出す。

誰かがさよの口癖だと笑っていたが今にして思えば非常に深い一言に感じる。

幽霊であるはずの彼女が突然実体を持ち当たり前のように食事をしていたのを超は何度も見たが、百年先の人間である自分すら驚き信じられない思いだったことは今も記憶に新しい。


「あの時に気付くべきだったのかもしれないネ。」

百年の時が必ずしも有利ではなく世界はそんなに甘くないとあの時に直接見たはずなのに、それを軽視した自分に超は自分の限界を自ずと悟る。

天才少女と呼ばれ完璧超人とまで言われた超だが、自身では天才だとは思ってなく種も仕掛けもある手品みたいなものだと考えていた。

百年のアドバンテージが彼女を天才少女としたが自分ではせいぜい秀才だと思うし、正直言えば超鈴音自身は天才など見たこともない。


「不可能を可能にするカ。」

かつて未来で超が聞いたのは先祖のナギ・スプリングフィールドは不可能を可能にした天才だったということ。

そしてネギ・スプリングフィールドは父の意思を継ぎ魔法世界の為に尽力した偉人だったということだ。

残念ながらスプリングフィールド親子の努力も及ばず世界は滅んだが、原因は親子ではなくナギの邪魔をしてまで世界の危機を隠し続け最後には自分達だけで逃げ出した元メガロメセンブリア特権階級だと幼い頃から教えられている。

だからこそ超は魔法世界を救い、魔法世界を滅ぼす元凶たる魔法世界を変革したかったのだ。

結果としてやはり自分には不可能を可能にする力などないことに超は悔しさでいっぱいだったが、同時にホッとした気持ちが生まれたことに何とも言えない心境だった。



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