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二年目の春・3

「何処に行くんだい?」

ホノルル国際空港はこの日も多くの人で賑わっていた。

多国籍の人々が様々な表情で通り過ぎる中、高畑と超と葉加瀬の間には目に見えぬ緊張感がある。


「追い付かれるかどうかは五分五分だと思っていたが、すでに待っていたとは。 流石は高畑先生ネ。」

高畑の最初の言葉はシンプルなものだった。

もしここで超が諦めてくれるならば逃亡しようとしたことは不問にするつもりで言葉を掛けたが、超は不敵な笑みを浮かべ嘘をつくことも隠すことなく高畑と対峙する。

その姿はまだ奥の手でも隠してそうでもあるが、冷静に見るとただの開き直りにも見える。


「麻帆良には二度と手を出さないから、私達を行かせて欲しいネ。 高畑先生なら私達のやろうとしてることの必要性を理解出来るはずヨ。」

「姫御子のことも二度と手を出さないと?」

話の主導権はやはり超が握っていた。

この場合は高畑が話の主導権を超に渡したとも言えるが、超は大胆にも単刀直入に見逃して欲しいと告げてその代償として麻帆良には二度と手を出さないと告げるも高畑が姫御子という言葉を口にすると超は返答せずにしばしの沈黙がその場を包む。


「麻帆良には手を出さないだけでは不満カ? ならば高畑先生はあの世界をどうする気ネ。 まさか明日菜サン一人の為に見捨てると?」

「償うべきは彼女じゃない。 彼女は被害者だ。 その彼女に何故犠牲を押し付けようとするんだ。」

「世界を救った赤き翼の一員である高畑先生の言葉とは思えないネ。 現実問題として魔法世界全ての命を救うには彼女が必要なはず。 それは分かってると思っていたガ?」

「超君はやはり未来人なんだね。 今の言葉でそれがよく分かった。 残念ながら君は僕のことは元よりナギ達のことをまるで理解してない。 歴史という結果を自分の都合よく解釈したとみえる。」

世界か明日菜かという究極の選択を高畑に突きつけようとする超に対し、高畑はその瞬間いろいろな記憶や想いが込み上げて来てしまいほんの僅かだが語気を荒げてしまう。

超はそんな高畑に流石に驚いたのか赤き翼の名前を出して揺さぶりをかけるも、それが逆に高畑を冷静にさせ超鈴音に哀れみのような視線を向けた。


「いいかい。 そもそもナギは世界を救うために戦っていたんじゃない。 孤独という言葉すら知らなかった小さな女の子とたった一人で世界を救おうとした女性を助けるために戦っていたんだ。 それも知らぬ君に世界や赤き翼のことを語られたくない。」

高畑は言葉には出したことがないが英雄という偶像に勝手に自分達を当てはめ、都合のいい期待ばかり押し付ける人々に不満と憤りを人知れず溜め込んでいる。

苦しいときには日和見を決め込んでなにもしなかったのにも関わらず、大戦が終わった途端自分が赤き翼を支援したなどと嘘を吐き人々を欺く人間がごまんといた。

実はメガロメセンブリアの赤き翼の支持者にはそんな連中も多く、戦後二十年が過ぎようとしてる現在においても英雄の一員である高畑がメガロメセンブリアと疎遠なのはそんな連中が本質的に好きになれないからでもある。


「では世界を見捨てるというのカ?」

「君は本当に何も理解してないな。 魔法世界の行く末を決めるのは僕のような個人じゃないんだよ。 魔法世界に生きる全ての人々だ。 僕はまず僕の家族を守るのが先なんだよ。」

あくまでも当然のように高畑ならば世界を救いたいのだろうと言いたげな超に高畑は、魔法世界の身勝手な人々の姿がダブってしまい自分達の現状を変える為に過去を変えてしまえという身勝手な考えが根底にあることに心底落胆する。




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