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その二

その日の夜、横島と魔鈴は雲一つ無い夜空を見上げていた

場所は西条達が作成しているアルテミス召喚魔法陣の近く

満月まで後一日、二人は万が一に備えて魔法陣の防衛に当たっている


「綺麗な月だな…」

少し肌寒い深夜の空気で満月間近の月はいっそう綺麗に見えていた


「古来より全ての生きとし生ける者は、月の魔力に影響を受けて来ました。 私達は肉体が無く神魔に近いため、人間より月の魔力に影響を受けるんですよ」

ポットから紅茶を注ぎ横島に渡す魔鈴は、寄り添うように隣に座っている

そんな無限にある星空を見ている二人は、自分達の争いが酷く虚しく感じてしまう


「未来を知ってるからこそ難しいな… 変えようと思う事が変わらずに、変えなくていい事が変わっちまう」

過去に来てからの様々な出来事を思い出した横島は、複雑な表情になる


止めれると思っていた犬飼のフェンリル化は、現状では止めるのは不可能だろう

そんな反面、横島の環境は180度変わっている

嫌われ馬鹿にされ続けるはずだった生活が、全く逆なのだ

人間の勝手さは嫌と言うほど理解してる横島だが、それにしても変わり過ぎだと不安になる


「そうですね… 世界の中では私達の力など無力に等しいです。 しかし、大きな流れは変わらないでしょう。 私達はそれを見失わないようにしなければ…… 二度と同じ悲劇を繰り返さないためにも」

魔鈴は少し冷たくなった横島の手をそっと握る

少しでも横島の不安が消えて、希望が持てるように…

そして自分の中にある不安も消えるように…

横島はそんな魔鈴に自然に笑顔を浮かべて、握られた手をより強く握り返す


互いの温もりと優しさに心落ち着かせていく二人だが、幸せな時を邪魔する存在が静かに迫っていた



「ククク… やはりアルテミス召喚の準備をしていたか。 フェンリルが復活すればアルテミスごとき問題では無いが、いささか面倒だな」

あの日エネルギーを奪い人狼の里を出た犬飼は、短い時間だが新たな力を使う修行をしていたのだ

そして満月の前日、静かに人間に対する復讐を開始していた


この時犬飼は、かなり離れた場所から魔法陣を見ている

人間の裏をかいて前日に行動を開始した犬飼だが、魔法陣に護衛がいるくらいは予想が出来ていた

魔法陣と護衛の数を確認するため、慎重に行動しているのだ


「まあいいか、相手が誰であれもう遅い」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべた犬飼は、静かに森の中を走っていく


この時、犬飼は八房の力と己の中にある力に酔っていた

自分以上の力の持ち主など存在しないと核心するほどに、巨大な力が目覚めつつあるのだから



「やっと会えたな…」

魔法陣まで50メートルを切った時、犬飼の耳に声が聞こえた


「貴様はあの時の人間か!」

走るのを止めた犬飼は声の聞こえた方を睨む


「やはり来ましたね。 満月まで待たないと思ってました。 それほど私達が怖いですか?」

犬飼の睨む先では、すでに刀を抜いた横島と杖を構えた魔鈴が居る

静かに語りかける横島と魔鈴は、怒りや哀れみなど複雑な表情をしていた


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