それは一瞬の出来事だった

ピートの目を眩ませた横島は、そのまま何もせずに魔法のほうきを召喚して逆方向に逃げ出してしまう


「横島さん何を！？」

「何をじゃねえだろ。　勝負したいなら捕まえてみろよ」

わざわざ接近して目を眩ませておいて逃げ出した横島には、ピートのみならず雪之丞やタイガーもポカーンとしてしまった

一言で言えば意味が分からない行動だし、目を眩ませた瞬間に攻撃するだけの隙は十分あったのだ


「捕まえるって……　僕は真剣に」

「俺も十分真剣なつもりだよ。　そもそもさっきの目眩まし程度に引っ掛かるようじゃ勝負にならん」

理解出来ない行動からおちょくられてると感じたのか若干ムッとするピートだが、横島も別にふざけてる訳ではない

まあ横島としては目眩ましを読んでいればそのまま接近戦でもいいかと考えていたが、ピートがあまりにもあっさりと引っ掛かった為に方針を変更したのだ


「捕まえればいいんですね」

横島の若干挑発めいた言葉にピートはそのまま乗ってしまい、自身も吸血鬼の能力を解放して空を飛び横島を追いかけ始める

その単純な思考そのものが問題だとまだ気付いてないらしい


「なにやってんだあいつら……」

一方勝負のはずが何故か空の追いかけっこになってる現実に、見物してる雪之丞は理解出来ないと言わんばかりに首を傾げる

まあ馬鹿正直な戦い方をするピートに横島が合わせるつもりがないのは見てればわかるが、何故そんな戦い方を選んだかまでは理解してない


「それにしても速いですノー」

「あいつ結構器用だからな。　それにあの魔法のほうきも普通じゃないしな」

逃げる横島に追うピートだが、やはり逃げる横島が圧倒的に優位だった

ピートは横島が空を飛んだ経験が多くないと考え空中戦に乗ったのだが、結局は横島のペースに巻き込まれてるだけである


「クッ……」

さて追いかけっこになってる肝心のピートだが、予想外の流れに迷いが抜けきってなかった

正直ピートが望んだ勝負の形ではないし、この先が読めないだけにただ追い掛けるしか出来ない


「相変わらず甘いな」

対してピートに追われる横島は、ピートの想定外のことへの脆さに苦笑いを浮かべる

迷いや苦悩があるのは理解するが、そこを越えない限りピートは中途半端のままなのだ



「勝負は引き分けだな」

結局追いかけっこ勝負は引き分けのまま終わる

横島はピートが接近すると練習用の波魔札や目眩ましレベルの霊波砲で嫌がらせのような攻撃をして逃げに徹したのだ

結局ピートは近寄ると攻撃を喰らうし離れると捕まえられないとのジレンマの中で、決め手がないままだった

そもそも自身が有利だと判断した空中戦自体が、逃げる側の横島が有利だと気付いたのは攻撃を喰らったあとである

無論ピートも横島に攻撃をするが、霊波砲で単純に狙うしか攻撃手段はなく横島に読まれやすかったのも原因の一つであった


「そもそも勝負するからと言って単純に殴り合うと思う方がおかしい。　単純に殴り合うだけなら経験に勝るお前が有利なのが当たり前じゃんか」

引き分けと言われてなんとなく不満そうなピートだが、横島としては単純に読める戦いをする意味よりは有意義な勝負だったと考えている