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二年目の春・3

「あら超さん。 一人なのですか?」

同じ頃あやかと千鶴は売店に買い物ついでにと最上階の展望室に足を伸ばすと、偶然にも超鈴音が一人で夜景を眺めていた。

あやかは特に意識した訳ではなく偶然出会ったクラスメートである超に声をかけるが、その表情は一瞬だがまるで別人のようである。


「おお、いいんちょ達カ。 葉加瀬は部屋で持参した研究をしてるヨ。」

目の前の美しい夜景もまるで見えないような何処か遠くを見つめる超鈴音の姿は日頃クラスの友人達とばか騒ぎしている姿とはまるで違い、まるで暗い闇の中でも覗くような得体の知れない怖さを直感的に感じるような気がした。


「……何か悩みがあるなら相談に乗りますわよ。」

「二人とも変わったネ。 特にいいんちょは一年前とは大違いヨ。 環境が人を育てるのか、はたまた人が人を育てるのか。 正直世間知らずのお嬢様だっただけに余計に感じるヨ。」

やはり彼女には何かあると感じたあやかは願わくば力になれないものかと手を差し伸べる。

しかしあやかと千鶴の瞳には心配と不安が入り雑じっており、超鈴音はそれを見抜くといつものような笑みを見せて突然二人のことを語り始める。

彼女は変わったと一言で言うと特別な意味がありそうに聞こえるが、実際に中学生の少女が変わるのはある意味自然なことであり特に指摘するほどでもない。

何故それをこの場で指摘するのか、あやかと千鶴はその真意が分からずに無言のまま思案していく。


「本来、何かを変えることは本当に難しいことネ。 二人はその難しさを理解してないヨ。 ある者は自らの命を賭けて変え、ある者は世界を賭けてでも何か一つのことを変えようとするものネ。」

超鈴音にとって目の前の二人は本来は取るに足らない存在でしかなく、彼女の計画の障害には到底なり得なかったはずの二人だったのだ。

それがいつの間にか自身の最大の障害になりつつある現状に超はこれが歴史を変える難しさなのかもしれないと密かに思う。


「それが超さんの悩みなのですか?」

「ああ、そうネ。 人は悩みと共にあるものネ。 悩みに悩み抜いて何かを変えて決断しなくてはならない。 いずれ二人にも分かるはずヨ。」

一方悩みを聞いたはずなのに訳の分からぬことを語り始めた超鈴音に二人は何故か横島の姿を思い出す。

横島もまた意味があるのか無いのか分からぬことを語り時々自分達を誤魔化すのだから。

しかもその言葉には何かしらの意味があることがほとんどなので、二人は超が悩みについては教える気はないが何かしらのヒントを教えているのだと悟る。


「私達と共に悩み共に考えることは出来ないのですか?」

「有りがたい話だけど今は一人で悩みたいネ。 その気持ちだけ受け取っておくヨ。」

このままでは超は何も語らないだろうと感じたあやかは今一度超に対し手を差し伸べるが、その手が握られることはやはりなかった。

ただ二人はこの時の超の態度と言葉で超鈴音が実質的に自分達と遠い立場なのだと強く確信が持ててしまう。

横島の超に対する態度や二人の両親達大人の超に対する反応など総合的に判断すると、心を許し共に悩み考えることが出来ないのは何よりの証拠となる。

結局二人はそのまま超と別れていくが、超は二人を見送りつつ複雑な心中に人知れずため息をこぼす。

何か気付かれたのは超も感じているが、もしかすれば茶々丸があやか達にも何かしゃべったかもしれないと思うと何も話すことは出来なかったのだ。

今更な気もするが自身の計画が明日菜や木乃香のみならず麻帆良を支えて来た二人の家にも多大な犠牲を押し付けることには変わりない。

この時代で出来た友人達を犠牲にする自身の計画に超はいずれ自分には罰が下ると思うが、彼女はそれでも未来をいや未来の大切な人達が幸せになれる世界がほしかった。


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