このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

二年目の春・3

夜のワイキキはホテルなどの周りの建物の明かりで彩られている。

少女達は最上階の展望室から夜景を眺めたりとハワイの夜を満喫するが、高畑は自室で腕時計型通信機にて土偶羅の本体からの通信を受けていた。


「超鈴音に関しては今日明日は誤魔化せる可能性が高いが、明後日には研究室や超包子にも査察を入れる。 それとクルト・ゲーデルについてだが、魔法世界から出して貰えてないからそちらに向かえないだろう。」

超の拠点の制圧と押収の状況やクルトの動きなどが高畑に伝えられるが、対超鈴音の動きは今のところ予定通りでありさしたる問題はない。

ただ近右衛門達の動きに気付いた超鈴音がどう動くかは不確定であり、万が一逃げようとでもしたならば強制的に捕らえ麻帆良に連れ帰らなくてはならない。

それとこれは可能性が低いが明日菜を拉致して連れ去る可能性も全くあり得ないという訳ではないのだ。


「了解した。」

土偶羅からの通信を言葉少なく終えた高畑はクルトのことは半ば放置しつつ超鈴音の今後について考え始める。

どのみち修学旅行に来る前からすでに詰んでいたこととはいえ、未成年の教え子を嵌めるようなやり方はあまり気持ちがいいものではなかった。

ただ高畑であっても超の計画が上手く行くとは思えぬし、来るか来ないか分からぬ未来の為に犠牲になれと言われて納得出来るはずもない。


「気が重いな。」

しかし根本的な価値観として高畑は世界を救いたいという超の想いは理解しているし、それも血も流れぬスマートな方法などないのは高畑が一番理解している。

だがここで問題なのは何故麻帆良と地球側を先に巻き込むかということであり、極論を言えば超鈴音は未来の魔法世界人の立場として今も生きてる証と言えた。


「クルトとは気が合いそうだけど。」

そもそも問題は魔法世界なので筋を通すならば先に魔法世界が負担を背負い血を流すべきであり、次いで責任があるとすれば有史以来魔法使いと対立し弾圧してきたヨーロッパの白人だろう。

それを魔法世界とも白人ともあまり関係ない麻帆良に第一の負担を押し付けようとするのは超鈴音の身勝手としか思えない。

結局自分の守りたい人を優先させるならば高畑とて明日菜や麻帆良の人々を優先させようと思うことになる。

正直なところ世界を救うなどと考えても誰もが納得する方法などなく所詮は救う側次第とも言えた。

より多くの為にリスクを減らし少数を犠牲にするというのは別に超鈴音ばかりではなく、高畑のよく知るクルトも同じタイプだったりする。

筋を通すなど考えずに自分の守りたいモノを守る為だけに考え動く姿はクルトとダブって見えるほどだ。


「力による解決を望んだ結果か。」

最終的に超は未来という力による解決を望んで負けるべくして負けるだけという歴史を見ると腐るほどある物語の終焉と同じ道を辿ることになると思うと、高畑は超鈴音の未熟さと才能の可能性を感じやりきれない気持ちになってしまう。

もし横島が居なければと思えば明日は我が身であり、あまり同情する気にはなれない。

そして高畑は一つこの件を通して気付いたことがある。


「ただ甘いだけではないか。」

超鈴音への対応は近右衛門を中心に考え決断したが、一人だけそれをいつでもひっくり返せる存在が横島となる。

だが横島は最終的に超鈴音の計画を潰すことに反対もしなかったし、その先に待つ超鈴音の行く末に関しても口出ししなかった。

人は時として非情な決断をせねばならないし、高畑自身も経験がない訳ではない。

横島の見た目と普段のお人好しさばかりに目を向けると足元をすくわれ飲み込まれてしまうのだろうと密かに思うことになる。


66/100ページ
スキ