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二年目の春・3

「明日菜君も大きくなったのう。」

「本当にな。」

一方近右衛門と清十郎は楽しげにご馳走を食べる明日菜を眺めながら、自分達は少しゆっくりしたペースで食べ始めていたがふと近右衛門は明日菜が高畑に連れられて麻帆良に来た時のことを思い出していた。

時間は夜遅くすでに深夜とも言える時間に歩き疲れて眠った幼い明日菜を背負った高畑が近右衛門の元に匿って欲しいと突然やって来た時は、近右衛門ですら正直どうなるのかと不安でいっぱいだったのだ。

ナギとアルビレオとは戦いの最中にはぐれてしまい行方知れずであり、ガトウは追っ手から自分達を逃がす為に瀕死の重傷のまま別れたと涙ながらに語った高畑の姿が忘れられない。

孤児だった自分を育ててくれた親にも等しい存在のガトウが傷付いていたのに自分は見捨てて逃げるしか出来なかったと慟哭した高畑が、今も前を向き生きていられるのはある意味明日菜が居たからだと言っても過言ではない。

正直なところ手に負えぬと考え京都か第三国に送ろうかとも考えたことがあったが、紆余曲折の末に最終的には麻帆良で匿うことにした。

いつ敵が現れるかも知れずメガロメセンブリアや各国魔法協会からも隠さねばならない明日菜の存在は、魔王などと呼ばれつつも自分からは手を出さなかったエヴァとは比べ物にならない負担と危険な存在だったのだ。

近右衛門は今でもよく受け入れたものだと思うことがあるほどである。


「瓢箪から駒とでもいうべきかの。 所詮人の人生など偶然と運次第なのかもしれん。」

タマモが作った手巻き寿司を美味しそうに食べる明日菜の笑顔に、近右衛門は誰にも聞き取れないほど小さな声で不思議な現状について言葉を漏らした。

魔法協会のトップとして近右衛門が明日菜を匿った件は明日菜の正体を明かした少数の幹部ですら批判とまでは言わなくても不安視していたし、内心では不満に感じた者も多かったのが実情だろう。

しかし真面目に働き人生を賭けて戦う高畑の姿が明日菜への不満を問題にさせない理由となったし、月日が過ぎるに従い不安も徐々に薄れて行った。

だが結局は偶然や運に助けられて来た結果が現状だとも言えるし、明日菜は全てをひっくり返すことが出来るほどの幸運を手に入れてしまったのだ。


「世の中何が起こるか分からんということじゃな。」

独り言のように囁いた近右衛門の呟きが隣に座っていた清十郎は聞こえたらしく、思わず笑い出すと何が起こるか分からないから面白いと言いたげに意味ありげな笑みを見せる。


「おじいちゃん達、二人だけで理解してないでなんか面白い話あるなら教えてよ。」

「なになに、アスナの昔話!?」

その後近右衛門と清十郎が言葉少なく何か二人だけで理解して笑い出したことに少女達が食い付き、特に近右衛門達にあまり遠慮がないハルナや桜子が遠慮なく自分達にも教えとねだると近右衛門や清十郎に高畑は明日菜の幼い頃の昔話を語り出すことにする。

まあそれは若干あやかも気恥ずかしい過去の思い出になってしまうが。

それもまたかけがえのない思い出の一つであり、当人達は恥ずかしくとも盛り上がることになる。


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