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二年目の春・2

「前にあの桜には意思があると言われたことがあるらしいわ。 流石に声が聞こえたとは言わなかったらしいけど。」

一方観桜会の会場では明日菜が戻って来たことで横島が説明を始めていたが、桜の木が語りかけて来たという事実にそれを聞いて驚かなかったのはさやかであった。

どうも桜の木に意思があることは以前に木乃香の母が気付いていて、あやか以外の雪広家の人々は知っていることらしい。


「意思を持つ木ですか? 凄いですね。」

「実はそう珍しいことでもないんだがな。 よくあるとは言わないけど。 ここは世界樹ほどじゃないが龍穴の上にあるから常に大地の力が満ちてるんだよ。 だから長く大切にされた桜の木が意思を持っても不思議じゃない。」

そして植物が意思を持ち語りかけてくると聞きメルヘンというかファンタジーみたいだと、珍しく少女達は魔法関連に前向きな興味を持つ。

ただ横島いわく雪広邸は立地条件などもいいことから必ずしも驚くほどではないとのこと。

麻帆良には世界樹に繋がるように四方に大地の力の流れる道と言える龍脈が流れていて、その龍脈にある龍穴という大地の力が吹き出すポイントに雪広邸があることが主な理由らしい。


「龍脈に龍穴ですか? 興味深いです。」

「魔法も本来はドンパチやるばっかりじゃないからな。 ここなんかだと他にも家と庭は家相を踏まえて造ったみたいだし、日本だと多分陰陽術とかにあると思うがそういう知識とか技術もいろいろこっちにもあるはずだよ。」

そのままこの日は日頃魔法関連の説明してくれる刀子やエヴァが居ないので珍しく横島が自分で説明していくが、木乃香達は意外にも興味津々な様子で話に食いついていた。

ぶっちゃけ使い道がないような攻撃魔法よりは生活に密着している魔法なだけに興味が持てるのだろう。

まあ女の子が風水や占いを気にする感覚で聞いてるとも言えるが。



「この桜が……。」

そしてタマモと一緒に庭に戻って来たあやかは、タマモから声が聞こえると教えて貰った桜の木の元に歩み寄ると感慨深げに見上げていた。


「あやかちゃんがきたからさくらさんがよろこんでるよ。 きこえない?」

残念ながらあやかには桜の声は聞こえないが、タマモが通訳するように桜の声を伝えるとあやかの胸に熱いモノが込み上げて来そうになる。

幼い頃この桜の元で泣いたり笑ったりしたことを桜の木が覚えていて、タマモを通して伝えられるとなんとも不思議な気持ちにもなった。

タマモは相変わらずあやかにも聞こえるんじゃないかと思っていて、何故聞こえないのかと首をかしげていたが。


「……ありがとう。」

それからしばらく桜を見つめたあやかはやはり自分には声が聞こえないことに少し残念ではあったが、それでもまるで自分に語りかけてくるように見える桜が愛おしく感じる。

そしてそれはずっと見守ってくれていた桜の木に感謝の言葉を伝えようと桜の幹に手を添えた瞬間に起こった。


「……えっ!?」

ほんの一瞬だが、まるで走馬灯のように次々と頭の中に不思議な光景と感情のようなものが見えていた。

不思議な光景は断片的であったが両親や姉と幼い頃の明日菜や木乃香などに続き、最後には今にも消えそうなほど儚くだけど確かに輝く小さな光が見える。


「今のは……。」

暖かく優しい気持ちに溢れた感情と懐かしく知らない光景に、あやかは桜の木が自分に何を伝えようとしたのか朧気だが理解した気がした。



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