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二年目の春・2

「タマちゃん、私先に戻ってるね。」

遠慮なく部屋に行ったタマモと違い明日菜は僅かに複雑そうな表情で部屋の入り口付近で止まっていた。

あやかのみならず雪広家の人々にとってこの部屋は特別であり、あれから七年が過ぎているにも関わらずこの部屋だけは当時のままになる。

それに気付いた明日菜は自分はこの部屋に入るべきではないと思い、驚くあやかと笑顔のタマモに一言告げるとその場を離れていく。

少し無責任かと思わなくもないが自分が居ればあやかは素直になれないだろうし、事情はよく分からないがタマモならばきっとなんとかするとの確信もあった。


「さくらさんがね、あやかちゃんがいなくなってしんぱいしてるよ。」

「ごめんなさいね。 少し疲れたから休んでいたの。 でもさくらさんというのはどなただったかしら? 今日の招待客にそんな名前の人は居なかったような……。」

一方突然現れたタマモに驚いていたあやかは弟のことを思い出し落ち込んでいた気持ちを隠してタマモの相手をするも、タマモが語る《さくらさん》という人物がすぐに思い当たらないあやかは誰のことなのかと尋ねていた。


「さくらさんはあのおっきいさくらのきのひとだよ。 なかよしなんだっておしえてくれたよ。」

「桜の木?」

招待客やお手伝いさんなどを思い出しタマモが誰のことを言ってるのかと真剣に話を聞くあやかであるが、タマモは窓から見える大きなしだれ桜を指さし心配していたのは桜の木だと教える。

しかしあやかはにわかには信じられないというか、イマイチ意味を理解出来ないようで不思議そうにタマモを見つめるしか出来ない。


「あやかちゃんのうちはすごいね! さくらさんもおしゃべりするんだから! わたしもさくらさんとはなしたのはじめてなんだよ。」

「あの桜が話したのですか?」

「うん!」

そのままタマモとあやかはおしゃべりを楽しむように話を続けるも、タマモは桜の木と話をしたがそれは桜の木が特別でみんなに桜の声が聞こえるもんだとばかり思ってることが判明する。

流石のタマモも植物と話をしたのは初めてらしく雪広邸には凄い桜が居ると褒めるが、そもそもの問題として桜の木の声をあやか自身は聞いたことがないと教えると逆にタマモがビックリしてしまう。


「おかしいなぁ。 さくらさんがあやかがげんきないからってしんぱいしてたのに。 あやかちゃんたちがまいとしこのひはげんきなくなるから、いっしょうけんめいきれいなはなをさかせてるっていってたんだよ。」

腕組みをして必死に考えながら桜のが語っていたことを教えるタマモの、にあやかは強い衝撃を受けたようで固まってタマモを見つめていた。

タマモは真剣であり嘘でも冗談でもないことは一目瞭然である。

何より雪広家では毎年この日が特別だったのは確かなのだ。


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