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二年目の春・2

「僕の名声なんてのはどうでもいいんだけど……。 クルトの動きによる魔法世界や麻帆良への影響は気になるんだ。」

現状では高畑がいつ動くかはクルトもメガロメセンブリアも注目しており、高畑次第で魔法世界の今後の流れが変わる可能性すら秘めている。

ただ当の本人は正直そこまでの自覚はないようで横島と刀子は少し渋い表情を浮かべることになった。


「どう思う?」

その後高畑は横島に情報の礼を言うと具体的な答えも方針も口に出さぬまま帰っていた。

安易に動く様子はないのでそこはひと安心と言いたいところだが、ずっと無言だった刀子は高畑が店から居なくなるとすぐに横島に意見を求める。


「救いたいんでしょうね。 やっぱり魔法世界を。 現時点で明日菜ちゃんの安全が確保されてるだけに余計考えてしまうような気するんだよなぁ。」

高畑が明日菜を第一に考え始めた方針に今のところ変化はないが、皮肉なことに横島を知れば知るほど明日菜の安全と未来への不安が少なくなるのが現実だった。

安心する分だけ魔法世界の未来にも気持ちがいってしまうことは当然とも言えるし、高畑にとって魔法世界は生まれ故郷であると同時に偉大なる先人が命をかけて守ったモノでもある。

魔法世界に縁もゆかりもない近右衛門達や横島とはやはり根本的なものが違うのだと横島は思っていた。


「そこは大きいわよね、やっぱり。 私も関西を捨てれるかと言われると悩むもの。」

「やってやれないことがないのが高畑先生のつらいとこかもしれないっすね。」

近右衛門達に刀子や横島は魔法世界に関わりがないだけに自分達の身を守るのを優先して最悪見捨てる選択肢を選べるが、仮に高畑の立場だったら誰もが高畑同様に悩むだろう。

ただここで問題なのは高畑自身が自分の地位や名声どころか赤き翼の実績や名声を利用してでも世界を救おうとする覚悟がないことかもしれない。


「クルト・ゲーデルは恩人の息子を利用してでも世界を救おうとしましたけど、高畑先生にはそこまでの覚悟も才覚もないんですよ。 今のところは。 暴論を言えば高畑先生は俺を利用してでも魔法世界は救える可能性がある訳ですから。」

「そこまでの割り切りは普通の人に出来るものなの?」

「さあ? それは俺にも何とも……。 ただ今のまま世界を救おうとするなら犠牲は誰がどうやっても出ますよ。 実は意外と犠牲が少ないのが完全なる世界の計画なんですよね。 みんな自分に都合がいい夢を見てるだけの世界を生きてると言えるならですけど。 あれは犠牲を減らす為に死の概念や世界の前提条件を変えてますから。」

中途半端といえばそれまでだが人はそれが当たり前であり普通ではないかと刀子は思う。

一方の横島は自分には今も昔もそんな覚悟がないので刀子との会話では客観的な事実としてそのことを指摘するが、高畑には自分の口からは言うつもりはない。

高畑にはその資格も可能性もあることは確かだが、そこだけは自分で考え答えを見つけて選ばねばならないのだ。


「そういう見方をするとこの問題って更に複雑になるわね。 死の概念とか世界の在り方なんて人間が考えれることじゃないわ。 いっそのこと救済方法を選挙でもして全ての人で選んだら?」

そして刀子は横島が語る世界と未来の話について、流石に頭がパンクしそうなほど訳がわからなくなってしまう。


「それ面白いっすね。 間違いなく戦争になりますけど。」

「犠牲になる人達が素直に従う訳ないものね。」

結局刀子は自分は英雄にはなれないしなりたいとも思わないとしみじみと理解したようで、最後に冗談混じりに救済方法の選挙でもすればいいとくちにするが横島は意外に面白いと半ば感心していた。

現実的に考えるとあり得ない不可能なアイデアではあったが。



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