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二年目の春・2

木乃香の誕生日から数日が過ぎると、麻帆良の街はいよいよ春祭りのカウントダウンに入っていた。

桜の開花予想は三月二十五日とまだ数日あるものの、現在はすでに祭りの準備期間となっていて準祭り体制で世界樹前広場を筆頭に祭り会場となる場所では屋台や桜のライトアップなどが設置されている。


「うわ~、美味しそうね!」

そんなこの日横島は午前授業で早く学校から帰ってきた木乃香とのどかと一緒に和菓子を作っていた。

もうすぐ始まる春祭りにおいて麻帆良学園の茶道部が合同で春祭り恒例の大茶会を開くらしく、横島の店に大量注文が入っているのでその試作をしているところである。

ちなみに現在横島の店では和菓子は裏メニュー扱いとなっていて、日替わりメニューとして出す以外は基本的にメニューには乗せてなく常連に頼まれたら作る程度にしていた。

個人では毎日来てくれるような常連の年配者は前日にリクエストすると作っているが、団体に関しては基本的に茶道部くらいにしか作ってない。

茶道部に関してはご存知とは思うが茶々丸が横島の和菓子を差し入れして以来の付き合いで、二学期からはさよも茶道部に所属しているしクリスマスパーティーでは木乃香や新堂と共に参加したほど関係が深いのだ。


「味見してみるか? もうすぐご飯だから少しだけな。」

さて春ということで桜餅やうぐいす餅などを筆頭に春らしい和菓子をいくつか作っている横島であるが、横島の店の厨房には木乃香達はもちろんのこと美砂達にあやかと千鶴など過去に手伝いで働いたことがある者を中心に横島とかなり親しい者は割と普通に出入りしていた。

この日は部活帰りでお腹を空かせてるらしい美砂達三人が今にもヨダレを垂らしそうなほど試作した和菓子に釘付けとなってしまい、横島は少し困った表情を見せて食べ過ぎないようにと釘を刺しつつ三人に和菓子を味見させる。


「マスター、あーん。」

「ちょっとあんたたち!?」

この時横島としては好きなものを食べていいと言うものの自分で選んだのは円のみであり、桜子が突然口を大きく開けて食べさせてと言わんばかりの態度を取ると美砂も負けてられないと口を大きく開けて待つ。

それは何処かお腹を空かせた雛鳥が親鳥にエサをねだるような光景に見えてしまい、木乃香とのどかはクスクスと笑ってしまうが円は流石にどうよと思うのか呆れた様子であった。


「お前らなぁ。 タマモが真似しちまっただろうが。」

そしてそんな二人の光景に触発されたのは、やはりタマモである。

私も私もと二人の横にならび大きく口を開けると横島は少し困ったようにしつつ、三人の口に適度に切り分けた和菓子を入れてやった。

ここで明確にダメだと指摘すれば横島にも大人の威厳のようなものがあったのかもしれないが、残念ながら横島には大人の威厳がないらしく結局甘やかす横島にも円は呆れ気味だ。


「うん! 美味しい!!」

「控えめな甘さなのに満足感はあるのよねー。」

「やわらかくておいしい。」

三人とも一応味の感想を言うがまだ物足りないのか再び口を開けてしまい、横島はこのあと何度か三人に餌付けをすることになる。

ちなみに騒がしい厨房に何事かと顔を出した夕映と明日菜は、そんな三人の姿に誉めていいのか呆れていいか分からず複雑な心境のようであった。

性格的にもそこまで出来ない二人だけに、単純に呆れるよりは若干羨ましくもあったのかもしれない。




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