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二年目の春

さてこの頃の京都では東西協力の交渉が無事に終わり、その一貫として雪広グループや那波グループなどによる経済協力が始まろうとしていた。

東西協力は当初の予定通り機密を除く一定の情報の共有と有事の際の共闘が主な柱になるが、これに先んじて東西の魔法使いの共同訓練も行われることが決まっている。

加えて沖縄や北海道など東西のどちらも影響力があまりない地域での優先的な協力も東西協力の交渉団から提案され、双方が受け入れたため行われることになっていた。

そして雪広や那波などの関東魔法協会の支援企業は関西呪術協会との交流促進を名目に、東西協力に賛成している関西の関係者との取り引きや支援を始めることにしている。


「なんといいますか、本当によろしいのですか? 我が家などで。」

「木乃香の為に刀子君が関東に行って以来苦労をかけましたからね。 それに葛葉さんには今回交渉を纏めた成果もあります。 当然の報酬ですよ。」

現状では協力を始める段階だがいち早くその恩恵に預かったのは、東西交渉を推進した者や纏めた者であった。

当然ながら刀子の実家である葛葉家もその対象であるが、刀子の父である葛葉直人は詠春を前に自分が恩恵を受けていいのかと恐縮している。

歴史と伝統がある関西呪術協会なだけにあまり目立つと余計な波風が立つという現実があり、ただでさえ刀子の立場で目立っているのにこれ以上優遇されて大丈夫なのか不安があった。


「それに青山家では二の太刀を正式に伝授した者は事実上一族として扱うという慣例があります。 刀子君が二の太刀を伝授された時点で刀子君と葛葉家は青山家の一族として扱いますから問題はないでしょう。」

葛葉直人は魔法の力量は並みより少し上だが、他は平均的な人間であり呪術協会でも決して抜きん出た存在ではない。

娘である刀子の為にもせめて足枷にはなりたくないと苦悩する人物であり、詠春もそれを理解しているのでかなり気を使って根回ししている。

実は詠春が語った青山家の慣例については神鳴流奥義ばかりか二の太刀までも外部に流出しているので近年有名無実化していている慣例であるが、いくら有名無実化してもここぞと言った時には持ち出すし使うのが歴史ある名家であった。

それと現状ではまだ直人には言えないが刀子は木乃香のみならず横島にも信頼されているので、関西にとって代わりの居ない貴重な人材になる。

刀子が実家を心配するような事態にならないように、葛葉家を今後青山家の一族扱いで重用していくのは自然な流れだった。


「私も娘を持つ父親です。 葛葉さんの心配は理解してますが決して刀子君が不幸になるようなことにはしないので宜しくお願いします。」

最終的に詠春が刀子を不幸にするようなことはしないとわざわざ断言して頼むと、直人としては受け入れるしかない。

まあ考えようによっては呪術協会を抜けれない以上は、どのみちトップである詠春に従うしかないのだが。

ただやはり娘のおかげで出世や生活が楽になるのは父親として複雑なものを感じずには居られないようである。





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