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その二

「シロは幸せだったのだな…」

沈黙を破ったのはジロウである

妖狐のタマモや人狼のシロが本当の家族のように受け入れられている光景は、ジロウにとって驚きの連続であった

人狼と妖狐が仲がいいと言うだけでも、長きにわたる人狼族の歴史の中でも聞いたことの無い話なのだから…


「お互い様ですよ。 みんなで助け合って生きてきましたからね」

笑って声をかける横島を、ジロウやタマモやシロは静かに見つめていた


「私は朝食の用意をして来ますね。 そろそろ美衣さんも起きるでしょうから」

話が一段落したのは朝の7時を過ぎた頃、魔鈴はいつものように朝食の用意に向かう


「犬飼の行方は私が探そう。 数は少ないが監視用の使い魔を犬飼の捜索に向かわせておる。 犬塚殿は犬飼が見つかり次第横島達と現地へ向かえば良かろう」

「よろしくお願いします」

カオスが犬飼の捜索をすることになり、ジロウがそれを承諾したことでひとまず話は終わる



「そういえば、今回横島はずいぶん人気者になったのね」

「何があったのでござるか?」

クスクス笑うタマモの言葉の意味を、シロが不思議そうに尋ねた


「横島と魔鈴さんが映画に出て人気が出てるのよ。 横島は女の子に結構人気があるみたいよ」

タマモはからかうような視線を横島に向けるが、シロは驚いた表情で見つめている


「いや… 映画は前回もあったんだよ。 前回はスタントシーン以外は別人に差し替えられてたんだが、今回はなんでかわからんがそのまま俺が使われてたんだ… そんなつもりじゃなかったんだがな~」

少し困ったように苦笑いを浮かべて首を傾げる横島を見て、シロはおおよその事情を察した


「先生、相変わらずでござるな…」

「相変わらずって、どういう意味だ?」

ちょっと呆れたような視線を向けるシロを、横島は不思議そうに見ている


「先生は自分の価値や存在感を軽く見すぎでござる。 魔鈴殿もよく言ってたではござらんか」

相変わらず自分の評価が低い横島を、シロは困ったように見ていた

元々誇り高い人狼族のシロは、必要以上に自分の価値を低くく見ることは納得が行かない


「いや、だって俺が映画に出て人気が出るなんて誰が予想する? めぐみだって予想出来なかったんだぞ?」

言い訳するように語る横島をタマモは面白そうに見つめる


「横島ってやっぱり横島よね。 他人を守る時は誰よりも強く鋭くなる癖に、自分の事になるとどっか抜けてるわ」

横島らしいその姿と行動を見て、タマモはどこか喜びを感じていた


「まあ、先生らしいと言えばそうでござるな」

タマモの言葉に納得したようにシロは頷く


「横島の自己評価が低いことは潜在的意識からじゃからのう… なかなか劇的改善は難しいわい」

タマモとシロと横島の会話を聞いていたカオスは、久しぶりの楽しそうなタマモやシロの様子を見て笑みを浮かべている


「これでも成長したと思うんだがな~」

みんなにあれこれ言われて、苦笑いを浮かべるしかない横島


「成長は十分してるわ。 でも、その成長してる分の自信が足りないのよ。 元々自信が全く無かったもんだから、成長に自信が追いついてないのよ」

結局タマモに的確に弱点を指摘される横島は、その後もいろいろからかわれていた

時を越えた家族の再会を、みんなが心から喜んでいる証なのだろう



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