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二年目の春

「なんでこうなるのやら……。」

「流石に少しやりにくいね。」

それからしばらくするとシミュレーター内には横島と高畑が向き合う形で相対していた。

横島は適当な相手でお茶を濁すつもりだったが、対戦相手に少し悩んでいたところエヴァに悩むくらいならば高畑とやれと言われてしまったのである。

周りで見ていた少女達は横島の強さに期待もしていたが横島だからこそ不安も感じており、高畑ならば変なことにならないだろうと賛成したのも大きかった。

どこか女王様気質のエヴァに本来丁稚気質の横島が流されただ けとも言えるが、基本的に女に甘い横島を理解してるエヴァは周りの少女達を味方につけて横島をコントロールしたとも言えるだろう。

ただ本当のところは気が進まない横島よりも高畑の方がやりにくさを感じているのかもしれない。


「正直、先に手の内を見てる俺の方が有利なんすけどね。」

相変わらず平々凡々とした横島は緊張感がない様子で困った表情を見せるが、これから戦うというのに全く緊張感も気負いもない横島の姿に高畑は心の中がざわめく気がした。

思えば高畑のかつての仲間達である赤き翼の面々やエヴァなどは、戦いを前にしても緊張感も気負いもない人達ばかりであった。

高畑自身がかつての仲間達と比べて自身が未熟だと考える理由には、そんな内面的な問題もある。


「貴様ら、さっさと始めろ。」

結局横島も高畑も自分から手を出す様子がないことで、コントロール室のエヴァから戦いを急かすようなアナウンスが入ったことで高畑は戦闘体制に入った。

ちなみに霊動シミュレーターのコントロール室には専属のハニワ兵が働いていて、今回は彼がデータ収集などを行っている。


「えーと、いいのかい?」

「いつでも構わないっすよ。」

エヴァの言葉を合図に高畑はいつでも戦えるように戦闘体制で横島を見ていたが、肝心の横島は一向にやる気を見せる気配がない。

たまらず確認してしまう高畑の生真面目さに横島は苦笑いを浮かべて返事をした。

横島としてはこの期に及んでダメだと言うつもりなどなく、そもそも現在の横島にはあからさまな戦闘体制は存在しない。

奇襲や搦め手を好む横島は相手が自分をナメてくれる方がよく、わざわざ相手を警戒させることなどしないのだ。

対する高畑は横島が弱いとは思わないが現実的にどの程度の強さか読めずに迷っており、最終的に彼が選んだのは普通の居合い拳であった。


「なっ!?」

常にポケットに拳を入れてる戦闘体制から放たれた居合い拳は音速で瞬時に横島に向かうが、高畑が居合い拳を放った時にはすでに横島の姿はなく居合い拳の衝撃波は空を切る。

この時高畑は横島の動きが全く見えなかったことに衝撃を受けながらも、経験上自身の死角となる背後を真っ先に振り向き探すが何処にも横島の姿はない。


「やっぱり相当な修羅場を経験してるんっすね。」

戦闘中に相手を見失うということは死を意味するようなもので高畑は最大級の警戒をするが、姿を消した横島の声は意外にも目の前から聞こえて来て目の前の何もない場所が揺れるように変化すると横島が姿を現す。

しかも横島は高畑のタバコをいつの間にか持っていてそれを返すように手渡すと最初に居た場所に戻っていく。


「何をしたのか聞いていいかい?」

「術で姿を消しただけっすよ。 気配も力も感じなかったでしょう? コツは気配や力は消すんじゃなくて周りに同化させるんです。」

自身がスーツの内ポケットに入れていたタバコを知らない間に取られたことに強い衝撃を受ける高畑は、背筋に冷たいモノが流れるのを感じながら何があったのか聞かずにはいられなかった。

戦いの最中にそんなことを聞くのはどうかと高畑本人は思うようだが、横島は特に気にする様子もなく説明を始める。

元々物理的な肉体ではないかつての世界の神魔と同じ霊体に近い存在である横島にとって、姿を消すのはさして難しいことではない。

ただ普通に姿を消しただけでは気配や力で相手に感知されるが、神魔は元より古くは金毛白面九尾の前世の知識まである横島からすると周りの気配や力と同化させて完全に消えることも可能だった。

まあ別に横島が考えた術ではないが。

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