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その二

力試しが終わった一同は再び長老の家に戻っている


「シロの話は信じるとしても、問題は犬飼じゃな…」

納得のいかない表情のシロをジロウが優しくなだめつつ、長老は困ったような表情で話を進めた


「長老! 犬飼は今回も拙者が止めるでござる!」

真っ先に声をあげたのはシロである


父にいいとこを見せたいと言う気持ちもあるが、今回の意見にはきちんとした理由もあった

犬飼が人を傷付けた場合は、未来と同じように犬飼を倒すのを人狼自身の手で行わなければならない

そうしなければ最悪の場合、人間は数少ない人狼族を危険だと決め付けて、滅ぼそうとするかもしれないのだ


未来において人間社会で生きたシロは、人間が本気になれば人狼族が滅ぼされるのをよく理解している

そして、人間社会において人狼や妖怪がいかに差別され危険視されてるかもよく理解しているのだ

そのような人間社会の事情を話すシロだが、長老の表情は優れない


「しかしの… 八房は厄介じゃぞ? 未来での実力はともかく、今のシロは子供ゆえな」

先ほどの力試しでもわかったが、体が成長してないシロでは八房の相手は難しい

長老は若いシロをわざわざ危険に晒したくないようだ


「長老、犬飼は私が追います」

悩む長老にジロウは自分が行くと言い出す

未来で犬飼に殺されていたとはいえ、村で一番の剣の使い手はジロウである

自分が行かねば方法が無いと思ったようだ


「うーん…」

長老は苦渋に満ちた表情で考え込む

本来ならわざわざ追いたくないのだが、人間と人狼族の対立は避けたいのだ


「長老さん、一つ提案があるのですが。 形の上だけでも犬飼の捕縛か退治を私達に依頼して欲しいのです。 その上でシロさんの父上と私達が協力して事件に当たります。 そうすれば人狼族のメンツも立ちますし、事件後に人狼族と人間の対立は少ないと思いますが…」

犬飼の問題は人狼族の内部の問題でもある為、長老達の話を静観していた横島達だがいい解決策がでない

そんな頃合いを見計らって、魔鈴は一つの提案を長老に持ち掛けた


これは横島達やカオスが第二の作戦として考えていた方法である

万が一犬飼を取り逃がしたら形の上だけ人狼族と協力することにして、事件後の人狼達に対する責任追及などをかわすつもりであった

タマモとシロの逆行など考えても無かった為、本来は書類上だけの協力にしようと考えていたのだ


しかし、実際に人狼が協力するならそれの方がいい

人狼族が人間と対立するつもりが無いのが良くわかるのだから


「ワシらは構わないが、おぬし達は人狼の依頼を受けて大丈夫なのか?」

長老は魔鈴の提案に目を丸くして驚く

人狼族にとってこれほど有り難い話は無い

横島や魔鈴が人狼族と人間の仲介にあたると言っているようなものなのだから…


「私達は構いません。 元々ある程度考えてた方法ですし、妖怪と人間の対立は望みません」

はっきり言い切る魔鈴を見て、長老は奥の部屋から一つの箱を持ち出した


「ここに金がある。 これを依頼料にして欲しい。 この近辺に金山があっての。 そこから採れたものじゃ。 足りない分は採れ次第渡そう」

横島達の前に出されたのは、小判より少し大きいくらいに固められた小さな金塊が数個であった
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