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二年目の春

シミュレーター内は一切の音もない静かな空間であった。

床を歩く自身の音や呼吸すら響くような環境はなかなかあるものではない。


「エヴァちゃんの要望で最初から厳しめにいきますね。 本気を出しても構いませんよ。 ここは大丈夫っすから。」

シミュレーターのちょうど中央付近まで歩いた高畑は次の指示を待つが、すぐに施設内放送にて横島から声がかかる。

エヴァの要望で厳しめにいくと聞くと高畑はすぐに戦闘体制に入った。

遠くに見えるコントロール室では横島とエヴァに少女達などが見えるが、何処か楽しげな横島達の姿に高畑はシミュレーターが始まるまでの僅かな瞬間にふと昔を思い出してしまう。

まだナギや赤き翼の仲間達が健在だった頃、呪文の詠唱が出来なかった自分に師であったガトウがよく修行を付けてくれていた頃のことを。


「あの頃に僕がもっと修行をしていたら……。」

昔を思い出し思わず呟いてしまった一言は高畑にとって決して消えることはない後悔の一言。

当時も決して楽だった訳でもないし、若き高畑も修行は熱心にしていた。

しかし今思えば当時の高畑はナギや仲間達が負けてしまうなどないだろうと心の中には甘えがあった。

何かあってもあのナギ達ならば必ずなんとかしてくれる。

そんな身勝手な甘えが高畑から仲間達を奪う結果となったと後悔し、それ故に高畑はこの十年近くがむしゃらに生きてきた。


(やはり似ているな。)

結果として高畑はこの十年近くで多くのことを成して少なくとも赤き翼の後継者との評価を受けるまでに成長したが、その代償として気が付いたら自分が守るべき少女のことすら見えてなかったことを一人の男により気付かされた。

知れば知るほど高畑は不思議な男だと今でも思う。

お騒がせで本人の意思と関係なく騒動の中心になるところなどはかつてのナギと同じであった。

いつの間にか周囲にはかつての自分やクルトを思い起こさせるような少女達が集まっていて、少女達のほとんどが今の生活が続くだろうと無意識に思っているのだ。

高畑が再び力を求め出したのは、そんな少女達にかつての自分を重ね合わせているからかもしれない。

横島とエヴァが居れば大抵のことならば問題にならないのは高畑も理解しているが、そんな甘えがかつて高畑から大切な人達を奪ったのだ。

今度は自分が守る側にならねばならないし、少女達に自分と同じような後悔を背負わせたくはない。

それ故に高畑は誰よりも力を求めていた。


「…………師匠。」

高畑が過去と現在を思い巡らせていたのは僅かな瞬間である。

シミュレート開始しますというアナウンスが入ると目の前に戦うべき相手が現れるが、それは奇しくも高畑がつい今さっき思い出していた師の姿をしていた。



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