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平和な日常~冬~5

タマモの一言により明日菜はほどなくして落ち着きを取り戻すと、ベッドに横になったまま横島達に視線を向けた。

相変わらず少し大袈裟だとは思うが、なんだかんだ言いつつ心配してくれる人が居ることは素直に嬉しいと感じる。


「子守歌でも歌ってやろうか?」

「子守歌が欲しい年じゃありませんよ。 それより横島さんが麻帆良に来る前の話が聞きたいです。」

明日菜の具合が落ち着いたことで横島は余り物のリンゴの皮を剥いて明日菜とタマモ達に差し出すと、すぐには寝れなそうな明日菜に子守歌でも歌おうかと言い出す。

当然ながら冗談っぽくおどけて言う横島に明日菜は思わず吹き出すように笑ってしまうが、そんな横島だからこそふと過去が知りたくなった。

別に難しい話や話したくない過去が聞きたい訳ではなく、麻帆良に来る前の横島がどんな日常を送っていたのかなど普通のことが知りたいのだ。

正月に魔法やら横島の過去の一端やら聞いた明日菜達であるが、あれから聞いたのは以前に横島が語っていた海外に居たという話が嘘だということや元の世界の大まかな情報など当たり障りのない話くらいである。

少女達にとって一番気になる横島自身が人間でないとのことなどの重要な話は、具体的に聞いた者はまだ居ないし横島も話してはない。

特別聞けないような雰囲気がある訳ではないが、基本的に周りの少女達は横島から過去や詳しい正体を話してくれるのを待ってるというのが現状だろう。

聞きたいとはみんな思うが横島の過去が必ずしも薔薇色の幸せなものでない以上は、無理に尋ねることはしたくはなかった。

尤も今回の明日菜のように当たり障りのない過去は時々聞いたりしていたが。


「麻帆良に来る前か。 うーん、何を話そうか。 そうだ小学校の時の話でもしようか。 俺がいかにモテなかったかよく分かるからな。」

ベッドに入ったまま横向きに寝ている明日菜の突然の頼みに横島は少し考えてから、ちょうどいいので明日菜の誤解の一つを解こうと幼い頃の話をすることにした。


「小学校の時の友達に凄いイケメンの奴が居たんだけど妙にウマがあってな、よく一緒につるんで遊んでたな。 ちょっと悪さとかもしたりもしてばか騒ぎばっかりしてたんだけど、後で怒られるのは決まって俺だけだったんだよなぁ。 先生にも女子にも本当に嫌われててさ。」

それは単純に横島個人の話だったこともあり明日菜ばかりではなくタマモとさよも興味深げに聞くのだが、イマイチ実感が持てないというかどうしても横島のイメージと重ならない部分がある。

まあ横島がワルガキだったのは想像に難しくないのでいいのだが、横島の言い方だとクラスの嫌われ者のように聞こえるがそこは本当のところどうなのかかなり疑問があった。

そもそも横島は自己不信が強いタイプで、身近な明日菜や木乃香ですら時々疑われることがある。

横島本人は基本的に冗談のように拗ねるが、それに乗って冗談で肯定したり放置するとそれをいつの間にか事実だと勝手に思い込むので木乃香達はかなり気を付けていた。

ぶっちゃけかなりめんどくさい一面であるが、明日菜は過去の横島の話の女子も同じなのではと疑っている。


「今考えても本当に凄かったな。 女子ばかりか先生も態度が露骨に違うし。 そんな扱いが嫌になって大人しくしたこともあったけど、今度は何を企んでるのかって責められるし友達がやった悪さがいつの間にか俺のせいになってたしさ。 まあおかげで人間の本質を身をもって学習出来たともいえるけど。」

そのまま横島は自分で剥いたリンゴを食べながらしみじみと話を続けるが、話をあまり理解出来ないタマモはともかく明日菜とさよは横島のめんどくさいほどの自己不信の根源がそこにあるのではと密かに思う。

ただ本当に嫌われていたならば、責められることすらないんだと未だに理解してない辺りはやはり横島の誤解が多分にある気がした。


「一緒に遊んだりとかしなかったんですか?」

「したぞ。 みんな友達が目当てだったと思うけど。」

なんとなく気になる明日菜は横島にいくつか質問をするが、それはやはり嫌われていたというよりは冗談やノリが含まれていただろうことを確信する。

遠慮なく何でも言えた横島少年は、クラスメートの女子達にとっても身近な存在だったことは想像に難しくない。

そこに恋愛感情があったかまでは明日菜には分からないが、この男は今までどんだけ損して来たかを考えると何とも言えない気持ちになっていた。

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