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平和な日常~冬~5

まあ横島の欠点は今更であるが、ここで難しいところは横島の場合は欠点も魅力一つのように感じるところだろう。

極論を言えば横島が普通に真面目な店にしていたら、恐らくここは学生が来る店では無くなっている可能性が高い。


「私達は散々悩んだな。 どうすれば学生に来て貰えるのか。 しかし店を学生に任せるという発想はなかったし、あっても出来なかっただろう。」

自分を気遣うような木乃香に対して坂本夫妻の夫は少し目を細めるようにして過去を振り替える。

マホラカフェは坂本夫妻から見ても横島と木乃香達が作り上げた店であり、成功の秘訣は横島が木乃香達の意見に耳を傾け任せたからだろうと夫は思う。

実際横島が何処までどうしようとしていたのかは想像も出来ないが、年端もいかない学生を信じて任せるというのは思いの外難しく簡単ではない。


「楽しく料理をするというのは、君達の味にも出ている気がするよ。 だからこそ、私はもう一度やろうと思えたのかもしれん。」

自分達が目指しても叶えられなかった世界が自分達の後に芽吹いたのは、正直複雑な心境としか言いようがなかった。

ただ麻帆良亭で同じことを出来たとは思えないし、現状は麻帆良亭が終わったからこそ生まれたものだろう。

楽しく料理をしてお客さんと共に一喜一憂する横島は一般的には異端とも言えるが、それが横島のカタチなのだと思えば興味深くはある。

麻帆良亭と共に終わらせたはずの自身の料理を再び日の目に当てたのは、そんな横島や木乃香達に自分の料理をぶつけて共演してみたいと思ったからに他ならない。


「いつの時代にも型を破る者は居るものだ。 麻帆良亭の初代も学生を相手に洋食屋をやるなど無理だと散々言われたらしい。」

コトコトと煮込まれている鍋から目を離さない夫だが、少し余計なことを話しすぎたかとほんのわずかだが苦笑いを浮かべた。

麻帆良亭の残り香を抱きながらも新しい店を作っている横島達に、坂本夫妻はやはり伝え聞く麻帆良亭の初代と重ねて見てしまう。

もし自分達にも伝統を変えるだけの勇気があれば、今の横島達にも負けなかったという自負もある。

ただ全ては過去のことであり今の坂本夫妻は新しく芽吹いたこの店で、一人でも多くの過去を懐かしむ客に喜んで貰えればそれで良かった。



「こんにちわー!」

「頑張ってるわね。」

同じ頃、二階には美砂達三人がハニワ兵の元に遊びに来ていた。

異空間アジトに行ってハニワ兵と仲良くなった美砂達は、最近ファッション関係の話をしに時々ハニワ兵の元を訪れるようになっている。

横島達三人と違いリアルにファッションに敏感な三人とハニワ兵は話が合うらしい。

最近作り始めた春物に関しては、そんな彼女達の意見が取り入れられた新作になりつつあった。


「ぽー。」

この日ハニワ兵はリビングでテレビを見ながら洋服作りに励んでいたが、三人が遊びに来るとお茶を出して新しい洋服のデザイン画や作りかけの洋服を見せて意見を求める。

リアルに街に出れないハニワ兵は雑誌やテレビで流行を取り入れていたが、美砂達はリアルにファッションを気にするのでその意見をハニワ兵は大いに喜んでいた。

隠れる必要が無くなったからかハニワ兵は美砂達を異空間アジトの果物やお菓子でもてなして、まるで女子会のような雰囲気で和気あいあいと楽しい時間を過ごすことになる。
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