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平和な日常~冬~5

さて個室の方では木乃香が煮え切らない刹那や純粋なタマモを見て少しだけ考え込んでいた。

そもそも木乃香が刹那と遊んでいたのはもう九年近く前のことになる。

昔を思い出しまた仲良くしたいとは思うが、本音を言えば今更感がない訳ではなく何が何でも仲良くしたい訳ではない。

はっきり言えば現在の木乃香はタマモには負けるが交遊関係はそれなりに広く友達も十分居るし、そんなに嫌なら別にいいかなとも思わなくもないのだ。

冷たいかなと思う自分も居るが理由も言わず離れて避けられてきた九年の年月を思うと、正直どうするべきなのか判断に迷うのが現状である。


「無理に昔のこと話さんでもええよ。 もう過ぎたことやし。」

そしてタマモの言葉に心を揺さぶられても未だに迷い決断出来ない刹那に、木乃香はとうとう意を決したように口を開き始めた。

元々木乃香は自分から進んで刹那が離れた理由や冷たかった理由を聞きたいと言ったことはないし、別に聞かなくてもいいかなとも思っている。

これに関しては実は横島を見てきた影響もあり、過去は過去でいいし本人がいつか話してくれたらそれでいいと思えるようになっていた。

正直なところ今回の木乃香と刹那の和解は刹那の為という側面が強く、極論を言えば木乃香にはあまり影響はないのだ。

ただ木乃香は刹那が昔のように仲良くしたいと言ってくれるならそれで良かった。


「お嬢様……。」

一方刹那は木乃香が過去を昔のことだと語ったことにショックを受けてしまう。

刹那にとってはあの頃が人生の全てと言っていいほどであり、本人的にはあの頃の記憶を糧に木乃香を守ってきたつもりなのだから。


「葛葉先生もお爺ちゃんと話す時とか時々使うけど、ウチその他人行儀な呼び方あまり好きやないんやわ。 公の場なら仕方ないんやろうけど。」

よくやく口を開いた刹那が語った言葉はショックを受けた様子でのお嬢様の一言であった。

そんな刹那の様子に木乃香は心の中では軽い苛立ちを感じながらも、なんとなく刹那が避けてきた理由の一端が見えた気がする。


「いいたいことは、はなさなきゃつたわんないよ。」

「そうやな。 ウチもそう思うわ。 黙ってたらわからへんよな~。」

まあ具体的な理由はよく分からないが、恐らく自分の中で抱え込んで勝手に自己完結した結果なのだろうと思えた。

そしてタマモもまた木乃香と刹那の変化に何か感じたのか、言いたいことは話さなきゃ伝わらないと至極マトモなことを口にする。

木乃香はタマモのあまりに的を得た言葉に思わず笑ってしまい頭を撫でてあげると、タマモは木乃香が笑顔になったことで嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「そうね。 話さなきゃ伝わらないわよね。 私も本当にそう思うわ。 私もね、昔は刹那みたいに考えてたことがあったわ。 話さなくても分かってくれてるって。 それが間違いだとは言い切れないけど、結局は話さないと伝わらないのよ。 私はそれで結婚に失敗したわ。 貴女は本当にこのままでいいの?」

タマモの言葉と目の前の微笑ましい光景に刀子はふと過去の記憶が頭をよぎる。

相手も分かってくれてると信頼するのは間違いではないのだろうし、事実刀子にとって相手であった前の夫は刀子を理解してくれていたし刀子自身もある程度は相手を理解していたとは思う。

しかしどんなに相手を想い理解したつもりでも言葉に出さないと伝わらないことはあるし、それが歪みとなりすれ違いや心が離れる結果になるのは刀子自身もよく理解していた。


「貴女がこのまま黙ってるのなら今後貴女は近衛さんの護衛から外れてもらうわ。 貴女は良くても近衛さんは良くないもの。 それに護衛対象と信頼関係もなく意思疏通も出来ない警護なんて万が一の時に危険よ。」

出来ることなら刹那に決断して欲しかった刀子であるがこのままではダメだと判断した結果、刀子はきちんと話すか木乃香から離れるかの選択を迫ることにする。

正直このままだと木乃香が刹那に見切りを付けるのではとの不安も刀子にはあった。

現実とは非情なもので刹那にとって木乃香は心の支えであっても、木乃香にとって刹那は心の支えではない。

木乃香が自分が刹那を縛ってると考えでもして突き放したら刹那は終わりなのだ。



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