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平和な日常~冬~5

会議の後半の新年会は和やかな雰囲気で始まっていた。

組織である以上は幹部や支援企業と言っても必ずしも一枚岩とは言えないが、現状では近右衛門が上手く纏めてると言えるし組織の害にまでなる人間は今のところ居ない。

まずはビールで乾杯するところなどは普通に日本的でお酒を飲みながら話は弾んでいく。


「今年の料理は一味違うな。」

「あっ、確かに。 今年は松月じゃないみたいだな。」

酒の席での話の内容は若い頃なんかの話から最近の愚痴に将来の話と様々あり一般的な酒の席と大差ないが、やはり料理に関しても気づく人は気付いていた。

会話に出て来た松月とは魔法協会員にして料理人である人物が経営する日本料理店である。

マスコミの取材など受けないのでさほど有名な店ではないが隠れた名店として知られていて、魔法協会関係の会議などでは弁当を頼むことがある馴染みの店だった。


「料理もそうだが、皿が冷たいのはこのお札が原因か?」

「そうみたいだけど、こんな小型の符術作れる人なんて麻帆良に居たか? 」

「居るはずないだろ。 関西は知らんがそもそも呪符って作るの難しいんだぞ。 ましてこれオリジナルっぽいし。」

いつもと一味違う料理は酒が進み話がより弾むが誰かが皿がいつまでも冷たいままであることに気付くと、皿の裏側に貼られた小さなお札を見つけて幹部達がざわざわと騒ぎ出してしまう。

麻帆良には関西に属さぬ符術使いがそれなりに居るが、実はお札そのものを一から作れる者はさほど多くない。

使うのと作るのでは難易度が違うということは当然ながら、基本的にこの手の技術は一子相伝のように限られた者にしか教えて来なかった歴史がある。

ちなみにこの温めるお札と冷やすお札も符術としての難易度は高くはないが、効果の調整は案外難しく思い付きや暇潰しで開発してしまうのは横島くらいだろう。


「どうも、どうっすか。 料理は?」

「おじいちゃんがお世話になってます。」

会議室が軽い騒ぎになる中でお札の製作者を知る近右衛門と雪広家と那波家の人間は少々複雑そうな表情をするが、そんな時に厨房の方から横島と木乃香が挨拶に現れる。

一応普段は着ないコック服は着てるものの、横島は以前に店で着た洋食系のコックやシェフが着てる服で木乃香は料理大会の時のパティシエの服だ。

服と料理が噛み合ってない二人だが挨拶に関しては帰る前に顔を出してほしいと近右衛門に頼まれていて、木乃香を助手にすると言うと二人で挨拶に顔を出してほしいと言われている。

ただなんというか相変わらず腰が低いというか小物感漂う横島と近右衛門の孫の出現に会議室は一瞬静まり返るが、そこに驚きはほとんどなくどちらかと言えば納得といった様子が大半を占めていた。

横島はお騒がせ男として有名であり昨年の学園主催のクリスマスパーティで挨拶した相手も多かったし、騒ぎになったお札もこの男ならばあり得るなと思わせるだけの印象を持たれているらしい。


「横島君も木乃香もご苦労じゃったな。 料理は満足しとるよ。 夜も遅いから気を付けて帰るようにの。」

そのまま横島と木乃香は全体に軽く挨拶をすると近右衛門が一言かけて横島達は退散する。

横島も木乃香も正式には魔法協会に所属してないので会議には参加出来ないし、近右衛門としては二人を顔見せ出来ればそれで良かった。

正直関西の手前木乃香を関東魔法協会の会議に参加させるなど出来ないし、料理を作った挨拶程度がギリギリ文句が来ない無難な顔見せの理由なのだ。




「腹減ったな。 なんか食って帰るか?」

「たまにはラーメンとかどう?」

「ええなー。」

その後横島達は料理の皿以外の後始末を終えて帰ることになるが、流石に近衛邸の厨房で余り物の夕食にする訳にはいかないので外食して帰ることになる。

途中何を食べようか話ながら帰り道を歩くが、カロリーを気にしつつも通りかかったラーメン屋の美味しそうな匂いに釣られてラーメン屋での夕食となっていた。

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