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平和な日常~冬~5

さて午前中は異空間アジト内を視察していた近右衛門達であるが、午後には麻帆良と同じ世界にて開拓中のダミー惑星に来ていた。

ぶっちゃけダミー惑星は生態系が地球とほぼ同じなので異空間アジトと変わらぬ景色であり、近右衛門達もイマイチ実感はなかったが。

広大に広がる未開の自然は見るものを圧倒するが、異空間アジトも大半は未開の自然なので景色的には変わらない。

まあ惑星一つをダミーとして開発する土偶羅のスケールに圧倒されてはいるのだが。


「活気があるね。」

一旦異空間アジトの転移場からダミー惑星に来た一行だが、彼らが見たものはハニワ兵達の活気に溢れた開発途中の街だった。

現在ダミー惑星は開発拠点となる場所の建築ラッシュ中なのだ。

最初は異空間アジトから送られてくる大量の物資で拠点を造ってしまい、この拠点が完成したのちにダミー惑星内での物資調達から開発まで一貫して行えるようにする予定になっている。

近右衛門達が到着したのは異空間アジト内の転移場と同じような場所で、異空間アジトからの物資が周囲には山積みとなっていてハニワ兵達が物資の確認と運搬に汗を流していた。

街自体も工事の進捗率は二割ほどでまだ完成にはほど遠い。


「この光景をメガロメセンブリアの連中に見せてやりたいね。」

「間違いなく戦争になるよ。」

見慣れぬ人間が来たことで警備担当や開発責任者のハニワ兵が慌ててやって来るが、土偶羅こと芦優太郎は最低限の警備担当を残して後は不要だと告げる。

あやかの父政樹と千鶴の父衛は目の前の広大な惑星がダミーだという事実に苦笑いを浮かべながらも、この光景ををメガロメセンブリアの人々が見ればどう反応するのだろうかと笑っていた。

新世界と言えば聞こえはいいがメガロメセンブリアの人々は要は地球を追い出された人々の子孫であり、彼らの祖先は一方的な被害者でもなければ加害者でもないのだ。

まあメガロメセンブリアに限らず自分達の国を持ちたいと願う人々は現代でも少なくない。

それが簡単に手に入るところもあるんだと思うと何とも言えない気持ちにもなる。


「ここの開発は今のところ取り立てて重要ではないからな。 最低限ここだけで自給出来るようにしたら終わりだ。」

現状での土偶羅の計画では開発拠点となる街と施設や農地などを造って終わりの予定らしい。

一応その後の開発計画もあるにはあるが、そもそも異空間アジトの存在が現状で第三者に漏れてそれを相手が信じることはほぼあり得ないのだ

まあ魔法世界と地球の世界情勢次第ではいろいろ使い道もあるので、いつでも大規模な開発が出来るようにしておく必要はあるが。


「万が一の際はここに魔法世界の住人を移住させてもいいし、お前達が移住してもいい。 人が住める無人惑星などいくらでもあるから欲しいなら進呈するぞ。」

横島と土偶羅は本当に何でもありだなと近右衛門達は呆れることにも慣れて来た頃だが、芦優太郎がここの使い道を人間に解放するつもりであると告げると流石に驚いてしまう。

開発目的は今のところダミーとしてだが、実際に使う可能性があるのは人間を移住させる方が可能性は高い。

ただまるで古本の貸し借りのように簡単に進呈するという価値観は人間には理解出来ないかもしれないと近右衛門達は密かに思う。


「魔法世界か。」

簡単に進呈するという芦優太郎に答えた者は誰もいない。

現時点でダミー惑星と地球を移動出来る技術があるのが横島側にしかないこともあるし、仮にこのダミー惑星を貰っても近右衛門達では手に余るのが目に見えている。

そんな中で詠春は広大な未開の地の景色に若い頃見た魔法世界の景色を重ねて見ていた。

出来ることならば救いたいとの想いは今も変わらずあるし、もしナギがこの場に居ればきっと後先考えずダミー惑星を貰い魔法世界の人々を救おうとするのは確実だろうが。

ただ二十年前の結末を思うと詠春はそれを実行に移すことは出来ないし、何より今のままのメガロメセンブリアを救えば近い将来メガロメセンブリアは必ず地球側の魔法協会を圧迫するだろう。

それにだからと言って罪の無い者達だけを救うことも現実的には難しい。

結局悩んでしまう辺り詠春も高畑と本心は近いのかもしれないが、それでも今の詠春は守るべきものがあり過去には戻れない。

少し昔が懐かしく感じる詠春であった。


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