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平和な日常~冬~4

館内の照明が消えるとスクリーンにはこれから上映予定の映画の予告編が始まる。

大きなスクリーンと大音量の迫力に映画が初めてであるさよとタマモは一瞬体をビクッとさせながらも、すぐに瞳を輝かせて見始めた。

上映予定の映画については麻帆良が地球と魔法世界と横島の旧世界の映画が入り交じっているようで、必ずしも最新作ばかりではない。


さて映画サムライマスターについてであるが、まるで時代劇か昔話にでも出て来そうな山奥の古い家に一人で住む詠春がナギと出会うところから始まる。

映画ではナギが世界を救うために仲間を集める為に旅をしている設定になっているようで、世界に興味がない詠春を口説いて旅に出ることになるがもちろん全部フィクションだ。

そもそも詠春の実家は神鳴流の宗家であり道場もあるので広く立派な家なのだが、この映画では詠春は何故か天涯孤独になっていた。

ちなみにナギと詠春のキャラクターは本人達を知る面々からするとお前達誰だよと言いたくなるほど美化されており、特に酷いのがナギの美化だったことは言うまでもない。

その後ナギと詠春は仲間を集めながら悪の秘密結社と戦っていくとのお決まりのパターンであったが、映画の詠春は寡黙でとにかく何かを斬るジーンが多かった。

修行にと山ほどの大岩を一刀両断したかと思えば海を割って海中の敵を斬るし、最終的には帝国の空中艦までスパスパと一刀両断している。

その内容に詠春の顔色は最早諦めの境地に達したかのように変わり、大人組とエヴァや横島は普通に笑っていた。

ただ詠春の表情が嫌悪にも見えるほど険しくなったのは、かつて共に戦ったアリカ女王が敵の幹部として登場したことか。

それと真実の歴史において重要な鍵を握るはずの明日菜に関しては登場すらしてなく、秘密結社完全なる世界の目的も単純な世界征服に変わっている。

この点に関しては真実が隠されてることで魔法世界の一般的な歴史に概ね近いものがあった。

それとちょい役に近いが高畑もクルトと一緒に少し登場していた。



「おもしろかったね!」

長いようで短い二時間ほどの映画が終わると詠春はさっそく映画を見ていた少女達やハニワ兵達に囲まれるが、タマモもどうやら映画を楽しめたらしく少し興奮気味である。

魔法を使った派手な戦闘や何でもかんでもバッサリと斬っていた詠春もあり、タマモ的にはそんな派手なところが楽しめたらしい。


「お父様凄かったわ~。」

「少し過剰演出な気もしましたが。 魔法は知りませんが刀一本であれほど斬れるとは思えません。」

「いいじゃないの! 映画なんだから」

そして木乃香や少女達の反応だが魔法を使った本格的な戦闘を初めて見たことで映画のリアルさ加減が分からないようだっが、何でもかんでも斬っていた詠春に関しては過剰演出ではとの声が夕映を中心に何人かこぼしている。

尤もハルナなんかは映画なんだからと細かく考える夕映を笑い飛ばしていたが。

なお大人達が懸念していた明日菜の記憶は現実からかけ離れた内容だったこともあり全く戻ることはなかった。


「うーん、歴史が美化されてくいい見本だったな。」

そのまま賑やかな一行は席を立ち館内を出ると休憩スペースに移動してこれからどうするかの話を始めるが、詠春は相変わらずハニワ兵達に囲まれている。

横島は映画は映画として普通に楽しめたが、一方でこうして歴史は真実からかけ離れていくのだろうなとしみじみと感じていた。

かつての世界で英雄とされた美神令子もそうだったが、詠春の様子からも本人にとっては決して嬉しい扱いではないのだろうとも思う。


《英雄だのなんだのと自分達の都合で勝手に決めて他人に頼るの止めて欲しいわ。 私が救わなきゃ滅ぶようならもう世界は終わりなのかもね。》

この時横島は神魔戦争初期に令子が溢していた愚痴を何故か思い出していた。

神魔の対立が深まり各地で神魔の活動が活発になると無責任な人々は当然のように令子を頼り戦うように求めた。

しかし令子はあくまで商売として受けた依頼以外は関わることはなかったし、最終的にはあまりに無責任な人々にあれほど好きだったGSすら辞めて異空間アジトに移住してしまう。

当時の横島としてはそれを令子の愚痴の一つだと軽く受け流していたが、今になって思えば令子はあの時すでに世界の終わりを本当に感じていたのかもしれないと感じる。

そしてそれは今もなお過去の英雄に熱狂する魔法世界も同じなのかもしれないと思った。
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