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平和な日常~冬~4

「世の中不思議なことがいっぱいなんですね。」

最後に横島達の部屋ではタマモがすでに夢の世界に旅立っていた。

気持ち良さそうに寝息を立てて眠るタマモが布団を蹴飛ばしたのを直してやったさよは、寝酒にと酒を少し飲んでいる横島を見て思わず口癖をつぶやくと笑ってしまう。

つい半年ほど前までは日々変わりゆく少女達を声をかけることも触れることも出来ないまま自分だけが変わらぬ世界で見ているしか出来なかったのに、 今ではこうして布団をかけてあげることが出来る。

それがいかに不思議で素晴らしいことか、さよは今も忘れることなく実感し感謝していた。


「本当に世の中は不思議なことでいっぱいだよな。 俺なんて自分で自分が一番不思議なくらいだし。」

そんなさよだが、今日一日の話を自分なりに理解出来たことは確実にさよの霊体が安定していることを示している。

相変わらず本来の性格である天然な部分はあったが、それでもさよが魔法や横島の過去を自分なりに受け止めてくれたことが横島は何より嬉しかった。


「異世界ですもんね。 まるでお伽噺みたいです。」

「確かにな~。 そんな童話があるしな。」

横島は異世界から来たという事実を一番冷静に受け止めたのはもしかするとさよかも知れない。

今まで一切事情を聞くことはなかったさよだが、横島が他の人と違うことを一番近くで見ていたのだから逆に納得する部分すらある。


「私がみんなに見えるのも魔法なんですか?」

「大きな括りで言えば魔法だろうな。 科学とは別の法則の技だし。 ただ厳密に言うと俺の元居た世界の魔法なんだけど。」

元々純粋で疑うことを知らないようなさよは異世界や魔法をほぼそのまま信じたが、同時に今まで聞けなかった自身の身体について質問していた。

なんとなく聞いてはいけないと勝手に思っていたが、魔法という存在を話してくれたなら聞いてもいいのかなと思ったらしい。

自身の現状を知りたい様子のさよに横島は一瞬神霊である事実を明かそうかとも思ったが、黙っていればおそらく百年はさよ自身を含めて誰も気付かない自信があるので今しばらく黙っておくことにする。

もちろんいずれは教えるべきだとは思うが、まだ早いだろうというのが横島の考えだった。


「へ~、そうなんですか。 やっぱりお伽噺みたいな世界だったんですか?」

「いんや、さよちゃんの世界とほとんど同じだよ。 麻帆良は存在しなかったけど日本もあったし東京もあった。 俺自身も普通に日本で生まれ育ったから高校まではいったしな。」

「あれ? 海外で暮らしてたって話は……。 そっか、異世界から来たからあれは嘘だったんですね!」

「そういうこと。 過去を調べられると困るからな。 日本だとすぐに嘘がバレるだろ?」

そのままさよは横島の生まれた世界に興味が移るが、どうもさよは横島の生まれた世界がメルヘンな世界だと思ったようで普通にさよ達の世界と変わりないと聞くと不思議そうに驚いていた。

この時さよは横島の以前語っていた過去が嘘だったとようやく気付くが、特にショックを受けることもなく何故か感心した様子であった。


「不思議なものですね。 遠い遠い異世界で生まれた横島さんと、麻帆良で幽霊だった私がこうして一緒に居るんですから。」

「そうだな。 きっと宝くじよりずっと低い確率しかないことだろうな。」

こうして普通におしゃべり出来る幸せは、きっと奇蹟よりも貴重なことなんだろうとさよは漠然とだが受け止めている。

そして今までは決して言えなかったこれから先のことを意を決したように語り出す。


「ワガママかも知れませんが、こんな日が一日でも長く続けばいいってずっと願ってました。 だから……」

「さよちゃんも大袈裟だな~。 俺もタマモもハニワ兵も寿命なんてないからな。 さよちゃんが本当に嫌になるまで一緒に居られるだろ。 もう家族みたいなもんなんだからさ。」

それは幸せ過ぎる故にいつか来るだろう終わりを覚悟した言葉だったが、横島はこの件に関しても驚くほど軽かった。

覚悟なんてなく先のこともろくに考えてない横島は、良くも悪くもいい加減である。

さよが居ることがごくごく自然であり、それを変えるつもりなど全くない。


「……はい、そうですね。」

横島にとっては考えることすらないほど自然な答えに、さよは涙を浮かべて笑顔を見せていた。

そんなさよの反応に横島は少し照れたようにタマモの様子を見に行く姿が、さよは何故か可笑しくてたまらなかった。
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