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平和な日常~冬~4

「横島君は相変わらずじゃが、これで一歩前進かの。」

一方近右衛門は詠春と穂乃香と同室であり、家族水入らずでゆっくりと過ごせることが少ないだけに素直に嬉しそうであった。

少女達へ魔法の存在を教えることが出来たし、横島のことも最低限教えることが出来たことにホッとしている。

尤も近右衛門達ですら知らないような事実も幾つか判明したこともあり、少々考えねばならないことも増えていたが。


「まさか異世界に来てまで過去が付きまとうとは思いませんでしたよ。」

「まるで来日したハリウッドスターのようだものね。」

そして詠春と穂乃香夫妻だがこちらも初めて来た詠春は驚きの連続であったが、それ以上に微妙な心境だったのは異世界に来てまで過去が付きまとったことだろう。

ホテルに入ってからもハニワ兵達の注目は詠春に集まっていたのだ。


「本当はこういうのはナギの役割なんだけど。」

魔法世界では子供から大人まで憧れるリアルな英雄である赤き翼の面々の中ではナギが圧倒的人気があるものの、それでもラカンや詠春も十分に人気がある。

ちなみに余談ではあるが関西呪術協会はメガロメセンブリアが認めてないメガロ的には非合法な魔法協会との位置づけであるが、詠春の人気から一般のメガロ市民ではあまり悪い印象を抱く者は少なかった。

正直なところ元老院よりも好感を抱く者が多いとの統計も一部ではあり、メガロメセンブリアが関西に手を出せない理由の一つになっている。

ただ詠春からすると若い頃の目茶苦茶な過去を美化されて大衆や娘に知られるのは恥ずかしいらしい。


「婿殿のおかげで我らが良き隣人になれるならばいいではないか。」

まるで魔法世界のように注目を集めるのは勘弁して欲しいと言いたげな詠春であるが、近右衛門はそんな詠春を見て笑いつつもハニワ兵達に好感を持たれるのは悪いことではないと考えていた。

イマイチハニワ兵と横島の関係ははっきりしないが、意思ある者ならば好感を持って悪いことはないだろうと思うのだ。

それにハニワ兵一人一人が個人としてそれぞれに技術や知識を持っているとなると、彼らが今後どれほど頼もしい味方になるかは言うまでもない。

正直なところ近右衛門は彼らを何人か雇えないかとすら考えている。

流石に危険な仕事などはさせる気はないが、機密を扱う故になかなか増やせない自分の秘書に欲しいと割りと本気に考えていた。



「ハニワ君達、みんな幸せそうだったわ。」

そして那波家の千鶴子と息子夫婦が泊まる部屋では千鶴子がふとハニワの街の感想を口にしていた。

一つの世界にどれだけのハニワ兵が居てどれだけの町があるかは知らないが、みんな幸せそうで活気に溢れる街が千鶴子は印象的だったようである。


「横島君の理想の一端というとこだろうか。」

「そうね。 素直に感情を露にして一緒に喜び一緒に笑えるような、そんな感じかしら?」

近右衛門のように直接ではないが長年麻帆良という街を守り発展させるべく尽力してきた那波家の人々だけに、一つの街を造る難しさも街を守る難しさも十二分に理解していた。

例え人とハニワ兵は違う存在だとしても個性豊かな存在が幸せそうに笑える街を造るのは簡単ではないだろうと思うのだ。

そしてここには横島の理想というか心の一端が現れている気がしてならない。


「これだから近衛君の代わりは居ないのよね。」

横島の過去に何があり何者なのかとの疑問は消えないが、それでも千鶴子はそんな横島を無条件で完全な仲間に迎えた近右衛門の英断に頭が下がる想いだった。

魔法協会や麻帆良の現状において横島のような怪しい人間を自ら真っ先に心を開いて迎えるなど並のトップでは出来ないだろうし、もし中途半端な協力だったら自分達はここまで来てないだろうと千鶴子は確信している。

いつの間にか長い付き合いになった友人である近右衛門の凄さを千鶴子は誰よりも理解していた。
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