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平和な日常~冬~4

一方メガロメセンブリアの元老院議員宿舎にある自宅にはクルト・ゲーデルが一人でとある映像を見ていた。

高層ビルの上層階に住むクルトを一般の人々は成功者だと見るが、実際には事実上の元老院による軟禁状態にある。

金の切れ目が縁の切れ目とまでは言わないが、赤き翼の一員としての名声を失いつつある今クルトを訪ねてくる者はほとんど居ない。

クルトの実力を知っていてつい最近まで共にこの国の人々を救うために協力していた同志でさえ、今度はクルトの存在が人々を救うには邪魔だと考える者も出始めていた。

帝国や元老院は元より地球側の魔法協会に至るまで周りを全て敵に回してもいいから一日でも早く人々を救おうとしたクルトだが、生憎とそこまで過激な考えの持ち主はかつての同志達でさえほとんどいないのだ。

そもそもクルトが一定の権力を握れたのは自身の実力は当然あるが、一番の理由はやはり赤き翼としての信頼である。

ネギを政治的に利用しようとして高畑にまで見捨てられたように見えるクルトには、最早赤き翼の一員としての信頼はなかった。


「タカミチ、何故君は動かない。」

正直なところクルトにとって現状は計算外の連続だったが、一番の計算外は高畑が一切動かなくなったことだろう。

計算外の始まりはネギの去就の失敗であるが、元々ネギの危険性を元老院は理解していたのでそれだけならばさしたる問題はなかったはずなのだ。

致命的なのはそこにまるでクルト自身も自分が謀ったかと思いたくなるほど絶妙なタイミングで存在が露見したフェイトの問題であった。

そして本来ならばこんな時に真っ先に動いた高畑が理由も不明のまま動かなくなったのだから、メガロメセンブリア中枢ではフェイト発見の問題はクルト黒幕説が最有力である。

黒幕説には他に近右衛門の名前も上がっているが、こちらはメガロメセンブリアでは疑問の声が多い。

確かに近右衛門は反メガロの魔法協会の代表的な人物ではあるが、それでも近右衛門は反メガロの勢力と親メガロの勢力が決定的に対立するのは避けて来ていた。

完全なる世界のような危険な連中で工作をするほど近右衛門は過激ではないのだ。

その点クルトはかつての恩人の息子さえ利用する人物であると同時に諜報活動に精通していて完全なる世界を追っていただけに黒幕説に真実味が出ている。



クルトはネギの一件で高畑が怒ったのは理解するも、高畑の性格からして完全なる世界をいつまでも放置するとは思えなかった。

そして最終的には完全なる世界を壊滅させるために自分に協力してくれるだろうと見ていたのだ。


「やはり姫御子は日本か? しかしタカミチの性格ではいつまでもじっとしてるとは思えないが。」

高畑が動かない理由はアスナ姫を隠し守る為かとクルトは推測しているが、実際のところ高畑は誰にもアスナ姫の行方どころか生死すら知らないとしか言わない。

アスナ姫はガトウが連れて逃げたとこまではメガロでも掴んでいたが、そもそも肝心のガトウですら未だに死体は発見されてなく公式には行方不明のままなのだ。

クルトは高畑の様子からガトウは死んだのだろうと思っているが、その最後は誰にも語らないのでアスナ姫の行方共々推測の域を出てない。

ただクルトも高畑が一人でアスナ姫を長期間隠せるとは思えなく、詠春か近右衛門が実際には隠してると思っていたが。

まあ結局現状でクルトが一番理解出来ないのは、あれほど完全なる世界に執念を燃やしていた高畑がいつまでも動かないことだった。

別に発見されてないアスナ姫を隠し守るのは高畑でなくてもいいのだ。

高畑もそれを理解するからこそ、今までは完全なる世界と戦っていたとクルトは思っていた。

そんな高畑の不気味な沈黙が何を意味するのか、クルトはかつて作らせた赤き翼の再現映像を見ながら一人考える正月を送っていた。
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