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平和な日常~冬~4

関西では今もなお二十年前の被害者が居るし、亡くなった者の遺族も当然ながら存在する。

ただメガロメセンブリアの巧妙なところは表向きは関東魔法協会の名前で二十年前戦争をしかけたことだろう。

まあ正式な名目はメガロメセンブリアの法に従い協力しなかった命令違反として関西呪術協会の者を捕縛に出向いたとの筋書きであるが、そもそも関西呪術協会は関東魔法協会もメガロメセンブリアも自分達の上位組織とは認めてないので当然ながら戦いというか戦争になった。

最終的にその戦争は赤き翼の活躍により魔法世界での戦争が終結すると戦争責任を秘密結社完全なる世界に全て被せるためにメガロメセンブリア側が麻帆良に一時撤退することにしたのだが、近右衛門がメガロメセンブリア側の勢力が関西との戦争に集中した隙に手薄になった麻帆良を一つに纏め掌握してしまったのだ。

その結果近右衛門は実の兄である当時の関西呪術協会の長と計り、メガロメセンブリアの魔法使いの日本からの撤退を終戦の条件として勝手に戦争を終わらせてしまっている。

無論メガロメセンブリア側は近右衛門の行動に激怒したが、半ばクーデターに近いとはいえ近右衛門が正規の方法で関東魔法協会のトップに就任した以上すぐには排除は難しかった。

加えてメガロメセンブリアが建前として関東魔法協会を前面に出したことが仇となり、メガロメセンブリアは関西討伐の口実を失っている。

ただこの件に関してはそもそも本来は魔法協会会長を選ぶ議決権を持つ幹部の半数以上がメガロメセンブリア側の魔法使いだったが、実は麻帆良の留守を守っていたメガロメセンブリア側の魔法使いの数人が本国の意向に反して近右衛門に味方したという事実が特に厄介だった。

魔法世界でも地球でも力で解決しようと暴走する自分達の祖国を憂い、日本の魔法協会は日本の人々に委ねるべきだと考え本国に処罰される覚悟で近右衛門に味方した心ある魔法使いがメガロメセンブリア側にも確かに存在したのだ。


「ただこちらは理屈ではなく心情の問題だからな。」

少し話が逸れたが関東魔法協会の一般的な魔法使いにとって二十年前の戦争が他人事だとの事実は、関西呪術協会の一般的な魔法使いとの認識の差は大きい。

もちろん関西呪術協会の人々も近右衛門達がメガロメセンブリアに悩まされ追い出したのは理解しているし近右衛門を恨むつもりはないが、見方を変えれば現在の関東魔法協会の人々は二十年前に同じ日本人である自分達を助けてくれなかったばかりかその混乱に乗じて権力を得たと見えなくもない。

近右衛門も麻帆良が落ち着いた頃には関西呪術協会に見舞金を払うなど誠意は見せたが、今度は関西で詠春が匿ったナギやアリカを狙ってメガロメセンブリアの工作員がの封印を壊すなど問題が起きて正式な和解が進まなかったのである。

まあ両面宿儺の件は近右衛門達とは直接は関係ないが、同じ西洋魔法使いがしでかした問題として関西の人々の心証が悪化していた。


「若い者達には蟠りが少ないとの事実は朗報だろう。 魔法協会の統合の是非はともかくとして、これ以上よそ者に付け入る隙を与えるのは問題だからな。」

刀子が語った関東魔法協会の一般的な人員の話は東西の協力の難しさを関西の幹部達に実感させたが、同時にこれから先の若い者達には大きな可能性を感じさせられたのも確かだろう。

少なくとも同じ国の中で魔法協会が対立していて喜ぶのは諸外国やその国の魔法協会なのだ。

実際に東西を統合するのは未だに現実的ではないが、それでも協力する環境作りは急がねばならない。


「しかし、こうして考えるとあの騒ぎはタイミングが良かったですな。 秘密結社だかテロリストだか知りませんが、メガロメセンブリアの目を我々から遠ざけ東西協力のきっかけをくれたのですから。」

とりあえず対外勢力への対策として東西の協力に反対する幹部は関西にも今のところ居なかった。

東西の対立も完全に無視は出来ないが、問題の優先順位としては完全なる世界やメガロメセンブリアの方が上である。

古来より国や組織を纏めるには共通の敵を外に作ることが一番なのだ。

正直なところ幹部達も自分達の世代での完全な東西の統合は難しいだろうとは思うが、せめて木乃香の世代までには形にしておきたいと考えていた。

尤も魔法世界の限界を妻より知らされた詠春は、そんな悠長な幹部達に内心では複雑なモノを感じていたが。

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