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平和な日常~冬~4

先代の長とはもちろん近右衛門の亡くなった兄であるが、彼は歴代の長の中でも特に占術に長けた人物だった。

ちょうど彼が長になった頃は第二次世界大戦の敗北により日本が混乱していた頃で、それは魔法組織でも例外ではなく直接戦争に関わらなかった関東魔法協会をメガロメセンブリアがどさくさに紛れて支配の強化をした頃である。

そんな時代に関東魔法協会とそこを支配するメガロメセンブリアに対抗する為にと若い彼が長になったのだ。


「あまり公にはしなかったらしいけど、先代様は時々未来が見えるとおっしゃってたそうやわ。 仲間内でも眉唾物だと言う者が居たらしいけど、おじいさんは本物やって言うてたわ。 その先代様の言葉を借りると、未来は一つやないと言うことや。」

祖母は夢の話から昔を思い出すように淡々と先代の長の話をしていくが、先代が占術が得意な訳は未来が見えるからだとの言葉に刀子の表情が微かに変わる。

刀子自身は幼い頃に神鳴流の道場で一度だけ先代に会った記憶があるが、正直会ったと覚えてるだけで特にそれ以上の思い出もない。

しかし未来は一つじゃないとの言葉はつい最近横島から聞いた時間と世界の関係の話と一致していた。

先代は自分に何を見たのだろうかと不安になる刀子に祖母は少し複雑そうな表情をすると話を続けていく。


「先代様はお前はやがて東に行くだろうとおっしゃったらしいわ。 ただしそこから先の未来はよく見えないとも。 私はね、正直怖かった。 だからこそ何があってもいいように、お前を厳しく育てた。」

それは衝撃の真実だと言えるだろう。

先代の長は刀子が東に関東に行くことを予言していて、祖母はそんな時が来ても刀子が恥をかいたり困ったりしないように厳しく育てたと告げたのだから。

正直、横島の話を聞いていなければ素直には信じられなかっただろうと刀子は思う。


「おじいさんは他にもいろいろ先代様に聞いたようやけど、私には全部は教えてくれへんかったんや。 お前は長生きするから話せないと言うてたわ。 話すと未来に影響するとかなんとか……。 私は理解出来なかったけどね。」

淡々と語る祖母の話に刀子の背筋にはヒヤリと冷たいモノが流れた気がした。

やはり一致するのだ。

つい先日に超鈴音の事を横島から聞いた時に、横島が何気なく語った未来と現代の関係についてと。


「……因果率が変わるから?」

「そうそう、そんなことも言うてたわ。 望まぬ未来にしない為には言えないとも。」

未来が見えるという能力は魔法関係者の間でも議論を呼ぶ能力として知られている。

その理由として一度見た未来が外れることもあることと、まず狙った未来が見えないことにあった。

従って未来視の能力は、いわゆる占術の類いの固有能力ではと言うのが魔法世界なんかでは有力な説だったりする。

まあ刀子にはそんな議論は興味がなかったが、先代の長は確実に未来が見えていたとしか思えなかった。


「おばあちゃん、何故今になってそんな話を?」

「全ては先代様のご指示やって聞いたわ。 もしお前が二十代のうちに神鳴流の奥義を極めんと帰って来たならば、全てを話すようにとな。 それと、自分の気持ちに素直になってええからってお前に伝えるようにって言われたんやわ。」

まるで肩の荷が降りたような祖母は、年のせいもあってか穏やかな表情で昔の厳しかった祖母とは別人のようだった。

そして刀子は先代の長からの伝言と、ずっと未来の不安と戦って来た祖父母の優しさと強さに込み上げてくる熱い感情が抑えられなくて涙を流してしまう。


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