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平和な日常~冬~3

同じ日妻である穂乃香から聞いた横島の素性とことの成り行きに詠春は頭を抱えていた。

非常識な人間には慣れてるとの自負はあるものの、横島の秘密はまた違った意味で常識がぶっとんでいる。

赤き翼の中では良識派だった詠春は穂乃香の話をそのまま受け取っていいのか悩んでしまう。

正直なところみんな纏めて集団催眠にでもあったかと疑いたくなっている。


「これもまたどうしたものか。」

ただし詠春は横島に関しては今のところ実害はないので一旦置いておいて、本当に頭を悩ませたのは魔法世界の限界の実質的な時間と横島側から提供された例の関西呪術協会のブラックリストであった。

関東魔法協会や雪広・那波両家に渡されたブラックリストはまだなんとかなる内容だったが、関西呪術協会のブラックリストは少し深刻である。


「予想はしていたが……」

関西呪術協会は元々世襲の色合いが強く幹部クラス以下地位は家によりほぼ決まっているが、全てが詠春に心から従っている訳ではない。


「二十年前の戦いを知らない人も増えたものね。」

尤も現状では関西呪術協会の幹部クラスはまだ前の長である近右衛門の兄の世代を知る者が大半であり、彼らは二十年前の戦争を経験しているので軽はずみな行動はしてない。

しかし一部では世代交代が進み関東との友好関係に不満を抱く者もそれなりに存在した。

特に世界を知らない古き家の若者などは、関東魔法協会は関西に従って当然だと公言するものまでいる。

基本的に麻帆良学園という表の顔があり外の世界を知る関東とは違い、関西の人間は国外の魔法協会などとの交流はほとんどない。

その結果関西呪術協会の人間は自分達の状況を全く読めてない者がかなりの数で存在した。

幸いだったのは今のところ表立ってなどとの何か仕出かす起こすほど行動力がある者が居ないことにあるが、機会さえあれば問題を起こしそうな予備軍はいる。

そして一番要注意なのはごく一部の中堅の家柄の若者達が、詠春や現幹部を排除して関西呪術協会を自分達のモノにしたいと企んでることか。


「こんな借金だらけの魔法協会が欲しいならあげてもいいんだけど。」

「そういう訳にはいかないだろう。」

「時間がないのよ。 いっそ彼らに関西呪術協会をあげて私達は関東に合流するのも悪くないわ。」

正直この件に関しては魔法協会として次世代をきちんとした教育や育成をしてきた関東と違い、関西は古くからのしきたりや慣例から抜け出せなかった弊害といえる。

関西では若者の指導は各家によりまちまちであり、未だに自分達が朝廷に仕えていた頃のままの誇りを守ってる家もあった。

ただ現実問題として現在の関西呪術協会は二十年前の戦い絡みの負債ですら残っていて、穂乃香は関西呪術協会の名前と地位が欲しいならあげてもいいと割と本気で考えている。

もちろん夫婦だからこそ言える半ば冗談の話であったが、それだけ現状が厳しいのは確かだろう。


「十年か……」

魔法世界の限界に関する問題は赤き翼にとって最大の懸案であったと同時に仲間達がやり残したことでもある。

今は関西呪術協会で手一杯な詠春には出来ることはないが、それでもかつての仲間達の努力と死が無駄になるかもしれないと思うと自分の無力さが嫌になるようだった。

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