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平和な日常~冬~3

一方魔法世界辺境の町の年末は例年にないほど賑やかなものだった。


「高けえよ!」

「馬鹿言うな。 年末のこの時期にここまで運んで来てこの値段は激安たぞ!!」

そこは土偶羅の人型分体の一体が運送会社の拠点を置いたごく普通の辺境の町であるが、魔法世界の辺境における個人の運送業としては珍しい大型の空中船での活動は辺境の町だけに限らず周辺地域に影響を及ぼし始めている。

正直運送会社自体は相変わらず儲けが出てないが、広大な敷地に空中船の格納庫や荷物の倉庫を建てると小型の空中船で運送業を営む個人が物資や商品の売り買いを目当てに集まり出したのだ。

運送会社が帝国や連合の地域から大量に買って来た物を彼らが更に近くの町や村に運んで売り捌き、帰りに辺境の町や村の農作物や工芸品なんかを仕入れて運送会社に売れば利益は多くはないが生活に困らない程度の利益は出ていた。

その後農作物なんかに関しては辺境で売り買いするよりはメガロメセンブリア近郊やアリアドネーなどの人口密集都市まで運べば値段が倍以上違う物も珍しくない。

まあ関税もあるので運送会社の儲けは空中船の維持管理や運送会社の経費でほぼ消えるが、それでも地域に与えている影響は大きくなっている。

元々自給自足に毛の生えた程度の地域に物流の流れを作った結果、周辺の辺境地域が経済の流れに乗ったのだ。

農作物や工芸品なんかは元より辺境にはありふれた魔物の牙や皮なんかも辺境では二束三文だが、メガロ辺りに持っていくと金持ちが高値で買う場合があった。

そして人が集まり物資と共に情報が流れると、目先の利く人は高く売れる物を集めて自分で運送会社まで売り来たりするため、会社の敷地は元より周辺には物流の拠点として露天市場が広がり今では周囲に宿屋や食堂や飲み屋などまで出来つつある。

そのあまりに急激な変化に、状況の確認や情報収集のためにと町にはメガロや帝国の諜報員までくるなど混沌としてきているが全ては土偶羅の計画通りだった。

まあ計画自体は地球では珍しくもなんともない流通業者そのものであるが、魔法世界においてはメガロや帝国以外が地球の情報を知るのは簡単ではないので意外と知られていない。

第一土偶羅を持ってしても儲け自体は出てなく初期投資を考えると赤字もいいところなので、仮に同じことを考えても誰も手を付けなかっただけとも言えるが。

実際まともに儲けを出すには年単位で辺境地域のてこ入れが必要だが、辺境は辺境で地域による争いもあれば権力者もいるのでそれはなかなか厄介なことである。

ただ土偶羅の目的は情報収集と魔法世界に地盤となる組織を作るだけなので、今のところは辺境のてこ入れなどする気は全くなく特に問題はなかった。


何はともあれ年末の運送会社は今までにないほど活気に溢れ、人々の表情は本当に明るい。

地球と魔法世界の対立もメガロと帝国の対立も、そして秘密結社の暗躍もこんな辺境には何にも関係ないことなのかも知れない。

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