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平和な日常~冬~3

さてこの日の麻帆良の街は前日までのクリスマスの雰囲気から一気に年末年始に変化していた。

欧米などではクリスマスの雰囲気のまま年末年始に突入する国もあるが、日本では二十六日からは事実上年末年始になるしそれは麻帆良と言えども変わらない。

ただ麻帆良では昨日と今日は学生の帰省ラッシュのピークなので駅や周辺の商店街は帰省する学生達で混みあうも、横島の店のように駅から少し離れるといつもの活気がない静かな街になっている。


「えへへ、私の勝ちだね!」

そしてお昼頃になった横島の店には桜子と千鶴が訪れていた。

共に麻帆良近郊に実家がある二人は、ちょくちょく実家に帰っているのでわざわざ混雑する時に帰省する気はないらしい。

暇だったからか先程からタマモとさよを加えた四人でトランプをしているが、相変わらず勝負事は桜子が強かった。


「桜子ちゃんのあれも才能だよなぁ。」

「運の善し悪しなんて偶然みたいなもんじゃないの? そりゃ桜子は人より運がいいけどさ」

あまり目立たないが手堅い選択を選びガードゲームの上手い千鶴に加え、自覚がないとはいえ神霊のさよと妖怪のタマモを相手にしても負け知らずの桜子を年末年始の献立を考えていた横島は端から見ていたが、やはり桜子の強運も才能なんだとつくづく思う。


「いや偶然なんかじゃないよ。 確率以上になるのは何かしらの理由があるはずだ。 時々聞くだろ? 科学で解明出来ないことがあるってさ」

そんな桜子の強運を才能だと言いきった横島に一応アルバイト中なのでトランプに参加しないで暇そうにカウンターやテーブルを拭いていた明日菜は偶然みたいたものじゃないのと語るが、横島は桜子の強運には理由があると意味深なことを口にする。


「よくわかんないけど、才能だとしたら羨ましい才能よね。 私なんて馬鹿力とかしか得意なことないのに…」


「そう悲観するなって。 俺だって中学の頃は勉強もスポーツも全然ダメだったぞ。」

「またまた~、本当ですか? 横島さんの昔の話って微妙にリアリティがないんですよね」

何か確証でもありそうな言葉を口にする横島に明日菜は微かな疑問を抱くも深く考えぬままに桜子が羨ましいとこぼす。

最近はすっかり変わった明日菜であるが、やはり馬鹿だと言われていたことは簡単には消えないようで自分に自信もなければ誇れるモノもないのかもしれない。

横島はそんな明日菜に冗談っぽくおどけてみせると少しだけ自身の昔の話を語る。


「先の未来がどうなるかなんて、誰にも分からないんだよ。 でも明日菜ちゃんは将来美人になるっぽいから得だよ。 やっぱ人間は顔だからな」

「途中まではいい話だったのに……」

明日菜は横島が自分を励まそうしてることに気付き思わず笑みをこぼすが、せっかくいい話をしていた横島が途中からやさぐれたような表情になると人間は顔だと言うので全て台無しだった。


「事実だ。 だから明日菜ちゃんの将来は明るいぞ。 自信持てって!」

「またそんなこと言って。 私は顔で人を判断するような人は嫌いですよ。 横島さんこそ美人に騙されちゃだめですからね。」

結局横島と明日菜はどっちが励ましてるのか分からない感じになるが、この二人には割りとよくあることで桜子や千鶴はまた始まったと笑って見ている。

美人やイケメンは自分とは別の生き物だと言わんばかりの横島は、はっきりいえば周りからすると少々めんどくさい。

そもそも女性が苦手だとの根も葉もない噂の誤解が解けない最大の理由は横島のそんなネガティブな一面なのだが、明日菜は割りと毎回本気で横島を心配して会話に付き合っていた。

ちなみに木乃香や千鶴ほどではないが、明日菜も店の常連なんかだと横島との関係が疑われる理由はそんなところにある。

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