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平和な日常~冬~3

結局刹那は嫌だとは言えなかった。

木乃香との関係がずっとこのままでいいとは刹那自身ですら思ってなく、いずれ木乃香には魔法の存在を知らされ自身も話をしなければならないのは理解はしている。

しかし刹那はかつて同族からも忌み嫌われた白き翼の半妖である自分の正体が知られるのがただただ怖いのだ。

正直こればっかりは刹那にとって最大のトラウマであり、もしかすると死ぬよりツラいことなのかもしれない。


尤も鶴子も刀子もそんな刹那の心情は理解はしているが、刹那自身がこれからも神鳴流剣士として生きていくならば越えなければならない壁であるとも考えている。

この先木乃香は自身が望む望まないに関わらず二つの魔法協会に関わらなければならない宿命であり、もしかするとそれを越えて世界を左右する鍵を握る一人になるかもしれないのだ。

このままでは刹那は木乃香を守るどころか、刹那自身が木乃香の弱点にもなりかねない危険性すらあった。



「少し早いけど刹那には試練やな」

「大丈夫ですよ。 お嬢様は私達が思ってる以上に成長してます。」

その後食事を終えた刀子達は店を出ると刹那は鶴子に別れの挨拶をして帰って行き、刀子と鶴子はそのままお酒を飲みに行くが鶴子は少し心配そうな表情を見せる。

まあ正直なところ刹那の気持ちも理解してるのだろう。


「そうみたいやな」

ただ刹那に木乃香と会うようにと迫った刀子はあまり心配してないようだ。

この数ヵ月の木乃香の成長は決して料理だけではないことを刀子は理解していたし、今の木乃香ならば刹那の心を開かせ再び心を通わせることが出来ると確信があるらしい。

そして鶴子はそんな木乃香の成長を刀子の変化から感じて感慨深いものを感じる。


「刀子、今年は帰ってくるんやろ? 実家に顔を出したら道場にも顔を出してくれへんか。 あんたにはまだ一つだけ教えてない技があるんや」

「えっ、私が知らない技などもう……。 まさか!? あれは宗家と限られた者にしか教えぬ秘中の秘のはず!」

「本来の神鳴流は、弐の太刀を極めてこそ神鳴流と言えるんよ。 これからのあんたには必要な技や。」

そのままお酒が進む二人だが鶴子は突如刀子に対し一つだけ教えてない技があると告げた。

刀子はそれが神鳴流において奥義の中の奥義と言われる弐の太刀だとすぐに理解したが、本来神鳴流弐の太刀は限られた者にしか明かされない秘剣でもあった。

今でも神鳴流に属してるとはいえ関東に出て何年にもなる自分に伝授されるとはとても思えない。


「誤解してる者が多いけど、弐の太刀は単純に人を護り魔を斬るだけの技やない。 故に限られた者にしか伝えて来なかったんや。 でもあんたなら使いこなせるはずや。」

鶴子は何故今になって刀子に神鳴流最後の奥義を授けるのか明確な答えは語らないが、神鳴流でも弐の太刀を限られた者にしか伝えなかったことには訳があると告げるとだけ教えた。

ただ正直刀子は戦場に生きる覚悟を決めた訳でも神鳴流剣士として戦う場がある訳でもない。

そんな自分が奥義を得ていいものか戸惑ってしまう。

しかし鶴子は一緒に学び一緒に未来を夢見た友が、ついに神鳴流最後の奥義を得るに相応しい成長を遂げたことが心底嬉しそうだった。


「青山先輩?」

「刀子、多くの仲間や同胞の未来はあんたに掛かってるんや。 しっかりと頼んますえ」

その後も何が何だか分からない様子の刀子に鶴子は機嫌よく頼むと語るも、刀子は意味をイマイチ理解出来ぬまま一応頷くしか出来ない。

この時鶴子は直感的に感じていたのかもしれない。

横島という存在の可能性とその危うさを。

そしていかに木乃香達が成長しようともまだ若すぎるということを鶴子は十二分に理解していた。

結果として刀子は神鳴流最後の奥義を学ぶことになる。
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