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平和な日常~冬~3

「そんじゃ行きますか?」

その日会合が終わったのはすでに十二時を回った後だった。

近右衛門達の異空間アジトの視察については急ぐ必要はないが、後回しにしていると何時になるか分からないとの事情もあり予定より遅い時間になったが強行されることになっていた。

横島と芦優太郎を除全員が期待と不安の入り交じった様子だったが、近衛邸の玄関で靴を履くと異空間アジトに居る土偶羅の力で一瞬で全員がその場から消えてしまう。


「転移術か。 凄いけど実感がないな」

「ここは…、空港か?」

恐らくあの世界の人間で初めて異世界に来たのだと思うと感慨深いものがある近右衛門達だが、近衛邸の玄関の次に彼らが見たものは一面に広がる星空と百メートルほど離れた場所にある空港のような施設の明かりであった。


「ここは外部と異空間を繋ぐ転移場っすよ。 元の世界の時には食料や戦略物資をここから送り出していたんです」

時間的に夜なのであまり遠くは見えないが、横島達が到着したのは異空間アジトと外部を繋ぐ転移場である。

空港のような施設は管理施設であり近くには倉庫がずらりと並んでいた。

異空間アジトはその性質上外部からの侵入を防ぐために強固な侵入阻止のシステムがあり、外部に転移出来る場所を限定していてそれは横島とて例外ではない。


「なんか、普通だね」

近右衛門達の反応は様々だが雪広政樹と那波衛の若い二人は少しがっかりしたような表情を浮かべている。

正直彼らはもっと未知の世界が見られると過剰な期待をしていたようだ。


「この辺は後から俺達が作った場所ですからね。 アシュタロス時代の物は全く違いますよ」

とりあえず転移場の管理施設まで歩く一行だが、清十郎や千鶴子なんかはここを使って物資を送り出していたとの言葉の意味を考えていた。

実際管制塔はないがそこは空港に酷似していて役割的には物流の拠点なのだと理解出来るが、規模がどの程度かなど興味は尽きない。


「ポー!」

「よう、ごくろうさん」

数分かけてゆっくりと歩いて管理施設に到着した横島達を出迎えたのは、警備員のような格好のハニワ兵達である。

短い腕を敬礼のように上げると横島は一声かけて管理施設の中に入っていく。

しかし施設の内部はハニワ兵も全く居ないため、まさに夜の無人の空港のようで寂しい雰囲気であった。


「それで何処に行くんだ?」

そのまま管理施設の中を簡単に説明しながらガイドのように歩く横島だが、具体的な視察の予定は当然ながら何も知らなく近右衛門達と事前に話していた芦優太郎に確認する。


「予定しているのは空中艦の視察とダミー惑星くらいだ。 アシュ様の遺産は見せていいのか?」

「別に見せてもいいんじゃね。 減るもんじゃないし」

横島としてはみっちりと視察のスケジュールでもあるのかと思ったようだが、現状で決まっていたのは魔法世界の空中艦の視察と異空間アジト内部ではないがダミーとして開発を始めた惑星くらいだった。

ぶっちゃけ今回の視察は近右衛門達の個人的な興味故の視察であり、当初横島が提案したアシュタロスの遺産を信じて貰う為との理由はすでに提供された極秘情報の数々で疑ってないので必要ではなかったのだ。

加えて少し話がそれるがアシュタロスの遺産である異空間アジトでも機密のランクが幾つかあり、一番の重要機密はコスモプロセッサーと同型の異空間アジトの中枢部を司るメインシステムである。

そもそも本来の遺産とはアシュタロスが残した知識や技術なんかのことであり、異空間アジトの世界そのものはそれらを残す為の副産物に過ぎない。

ちなみにメインシステムに関しては土偶羅本人と遺産の継承者である横島とベスパとパピリオしか入ったことはなく、かつての協力者であったドクターカオスですら入れたことがない場所になる。


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