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平和な日常~冬~3

「あの子達がそれほどまでに厳しい運命を背負っていた可能性があったとは……」

芦優太郎が語る時間と世界の基礎知識については一応理解出来たというか頭に叩き込んだという印象が強い。

それを飲み込みきちんと理解するには今しばらく時間が必要だろうが、それでも誰一人として逃げることなく受け止めてはいた。


「横島君は厳しい世界を生き抜いたんだね」

「生き抜いたと言えば生き抜いたんでしょうかね。 ただ偶然生き残ったという方が適切な気はしますけどね。 別に世界が滅んでまで一人で生き残りたいなんて思いもしませんでしたし」

そしてこの場に居る者でただ一人緊張感がないというか、いつもと変わらぬ横島がいかに大変な世界を生きて来たかということも近右衛門達は改めて感じている。

近右衛門達にとってそれは天地がひっくり返るような衝撃的な説明だったが、横島はそれをすでに当然のように受け止めているのだから。


「ぶっちゃけ皮肉な運命なんてのは前にもありましたしね。 まあ俺のつまらない過去と現状を比べて現状が優しいとは間違っても思いませんけど、それでも今は守れる自信がありますしね。 なんせこっちは相手のカードが丸見えの反則みたいなもんですから」

そろそろ鍋のシメにしますかと告げると水炊きを食べた鍋にご飯を入れて、雑炊を作りながら横島は自身の気持ちというか考えを語り始めた。

明日菜達の運命がかつての自分や令子と比べても優しいとは間違っても思わないが、それでも横島は自分と土偶羅が居れば守れる自信がある。


「情報を制する者は世界を制するか」

「流石に世界なんて要りませんけどね。 もう持ってるんで」

相変わらずの軽さがある横島だが同時にどこかしんみりとした雰囲気を纏いつつ語るその姿は、人知を越える情報に戸惑いを隠せなかった近右衛門達を何故か落ち着かせていく。

そして世界なんてすでに持ってるから要らないとこぼす横島にたまらず近右衛門達は笑ってしまう。

普通はそれは場を和ませる冗談だと受けとるだろうが、横島は至極真面目な本音であり近右衛門達もそれを理解したが故に可笑しくてたまらない。


「ああ、もし学園長先生が魔法世界が欲しいと言うなら協力は惜しみませんよ」

「わしも魔法世界など要らんわい。 あれはどう考えてもババじゃろうが」

魔法世界の人々は自分達の住む世界を新世界と呼び魔法使いの理想郷だと語るが、近右衛門には先程横島が例えたカードから連想してしまいどう考えても魔法世界はババ抜きのババにしか思えなかった。

横島は冗談混じりに近右衛門が魔法世界を欲しいならと言うが、近右衛門は冗談でも要らないと断固拒否する。

そもそも近右衛門には魔法世界への野心などないし、仮に今すぐ自由になれるならば娘夫婦と孫と一緒に住んで楽隠居したいと言うだろう。


「結局は魔法世界の問題をどうするかが全ての根源なんですね」

「話は振り出しにもどったの」

その後横島と近右衛門の馬鹿話の影響もあってか会合はようやく正常な形に戻るが、結局のところ超鈴音にしろ秘密結社完全なる世界にしろメガロメセンブリアにしろ問題の根源は全て魔法世界の限界にあったということで話は振り出しに戻ってしまった。

正直近右衛門達も魔法世界の救済を全く考えてない訳ではないが、現状の世界情勢や魔法世界の残りの時間を考えると先程近右衛門が語ったようにババ抜きのババか貧乏クジを引く羽目になる。

そもそも救済には魔法世界に多大な混乱と痛みが伴う可能性が高く、仮に全てが上手くいってもあちこちから恨まれるだろう。

にもかかわらず救済しても自分達には恨み賃込みの名誉以外に得るものはなく、下手をするとスプリングフィールド一族の二の舞だった。

かと言って恨むような輩を始末したのでは歴史に残るような独裁者と変わりなくなってしまうのだから、近右衛門達からすると魔法世界の救済は選べる手段ではないのである。



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