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平和な日常~冬~3

一方横島とアルのやり取りを見ていた近右衛門と穂乃香は、密かに自分達の選択肢が正しいことを感じ安堵していた。

横島という男は懐に飛び込めば驚くほど甘かったが、中途半端にちょっかいを出した結果がようやく見れたのだから。

正直今回の件も素直にナギを助けてほしいと頼めば横島も悪いようにはしなかっただろう。

第一詠春と高畑は横島と上手くやってるし横島も二人を尊敬してるのは近右衛門から見て明らかなのだ。

ただ言葉巧みに横島を自分のペースに引き込み動かそうとしたのがアルの間違いだった。

そもそも横島本人は化かし合いは苦手だと語るが、近右衛門には敵わなくとも高畑や詠春よりは上手い。

目先の利益や興味で釣れる程度の存在ならば近右衛門もあそこまで悩まなかっただろう。



「では最後にせめて貴方の名を教えて頂けませんか?」

「アルビレオ、それは止めてちょうだい。 いくら貴方でも娘の大切な人の心に土足で踏み込むのは見過ごせないわ」

そして横島には全く取り付く島もないと理解したアルはようやく諦めたかのような表情を見せて会話を止めるが、最後に横島に握手を求めて名前を尋ねる。

しかしその瞬間近右衛門とエヴァと穂乃香の表情が一変した。

それは彼のアーティファクトである『イノチノシヘン』の能力である半生の書を作成する儀式の一部始まりの一部である。

作成した時点の相手の性格・記憶・感情に能力まで記録する半生の書は、作成する際に相手の肉体に触れて相手に本当の名を聞く必要があったのだ。

他者の人生を収集するのが趣味である彼は当然ながら今まで相手に断りなく半生の書を作成して来たが、横島の過去をこの男にだけは知られてはいけないと穂乃香はすぐに止めに入っていた。


「前にも言ったわよね。 貴方のアーティファクトは気軽に使っていいものではないって。 あの時はうちの人の顔を立てて許してあげたけどいい加減にしないと私も怒るわよ」

実のところ半生の書の作成に関しては、以前に穂乃香が作られそうになってぶちギレたことがあった。

その時も何も知らない穂乃香の人生の書を作ろうとして詠春に止められて、事情を聞いた穂乃香があまりにデリカシーのないアルに本気で怒ったことがあったのだ。

ちなみに近右衛門とエヴァも当然ながら半生の書など作らせてない。


「私ね少し後悔してるの。 昔、貴方のような人がナギやうちの人には必要だって思ってたけど、結局最後まで貴方は傍観者の立場から変わらなかった。 何故中途半端なままのナギを止めなかったの? あの戦争が終わった後、貴方達がアリカをきちんと支えてさえいればこんな未来にはならなかった! 貴方ならナギの間違いに気付いていたわよね」

いつの間にか怒りの表情の穂乃香は自身の魔力を高めながらアルに一歩また一歩と近寄り、アルの本音を問いただすように強い言葉をぶつける。

事の発端はアルの安易な行動だが、穂乃香は昔と変わらぬその行動にずっと心に秘めていた不満をぶちまけるように口にしていた。



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