その後木乃香に続き横島のダンスの相手をすることになったのは千鶴だった。

初めての木乃香と違い千鶴はやはり慣れてるようで、ダンスが格段に上手い。

横島が自然とそんな千鶴に合わせるようにダンスを踊ると、会場の人々の中には少し驚きの表情に変わる者もいる。


「動きが変わった？」

「相手の彼女の動きに合わせたみたいね」

驚きの表情を示したのはダンスに詳しい者か魔法関係者であった。

相手が千鶴に変わってから横島のダンスが明らかに変わったのだから。

特に会場に居た刀子は鶴子と共に穂乃香や近右衛門から着かず離れずの距離で横島を見ていたが、その変わりように驚いている。


「やっぱり彼は強いわ。　瞬時に彼女の動きに合わせたあの反応は見事だもの」

実はこの件に関しては横島としては意識した行動ではなく、木乃香と踊って少し慣れて来たことと千鶴の上手さに自然と体が反応したという程度だった。

しかし見る人から見ればそれは驚きであり、特に実力ある魔法関係者は横島の実力の片鱗に気付いた者もそれなりにいる。

相変わらず一度手合わせしたいと言いたげな鶴子に刀子は困った表情を見せつつも、刀子自身も横島の強さに興味を持ち始めていた。


「なかなか上手いですね」

一方相手が木乃香から千鶴に変わった横島だが、本人はさして心境の変化はなく見た目は変わらぬが内心では相変わらず緊張気味だ。

千鶴自身も横島が自分に引きずられるようにダンスが上手くなったことに気づき少し驚いてはいるが、微妙なぎこちなさや不慣れな感じは相変わらず残っておりその適応力に驚く程度である。


「ボロが出ないように必死だよ」

総合的に見て横島はダンスには素人だがそれなりに練習をして来たのだろうと思う千鶴は素直に褒めるが、横島は必死だと少し笑いながら口にした。

正直ダンスは体が反応するようにそれなりに踊れてるからまだいいが、なんというか精神的なモノは結構大変である。

先程の木乃香の言葉がまだ頭に残っていることも理由にあるが、ふと周りに感覚を向けると自分達が注目されてることは当然感じるしそれが当然プレッシャーにもなるのだ。

基本的に自分一人ならば他人にどう見られようがあまり気にならない横島だが、そこに女の子が絡むと細かいところが気になるし悩みもする。

はっきり言えば女性が絡むと昔の根性がない横島に戻るだけだが。


「もっとリラックスしていいですよ」

そして千鶴は横島が見た目以上に余裕がないことに気付くと少し可笑しく感じるが、同時に千鶴自身も緊張というか胸の鼓動がいつもより早いと感じる。

そもそも日頃から横島に気軽に抱き着く桜子や何気なく密着する美砂と比べて、千鶴と横島が触れ合うような機会はほとんどない。

特にダンスのように密着する機会は全くなく、千鶴が横島とこれほど近い距離で触れ合うのは麻帆良祭以来であろう。

ダンスにはそれなりに慣れてる千鶴も相手が横島というだけで、いつもと違う心境になるのだから自分でも少し不思議だった。

加えて美砂達が先程話していたことも微妙に頭に残っている。

本音を言えば横島に素直に甘える木乃香達や気軽に密着する美砂達が羨ましいと感じたことは一度や二度ではない。

それは常に人に見られることを意識して生きて来た千鶴には到底出来ないことであり、そんな自分がもどかしく感じるし嫌になる時がある。

横島の現状にこのままでは誰かに盗られると危機感を抱く美砂達の気持ちは、夕映達よりは千鶴の方が理解してるかもしれない。

生まれた環境から数多くの人々と出会い交流がある千鶴は、横島が特別であることを一番理解しているのだから。

人の関係は綺麗事ばかりでは済まないし、このままでは自分一人だけかやの外に置かれてしまう。

その危機感が千鶴の胸に深く刻み込まれることになり、このままではダメなのだと考えるようになる。