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平和な日常~冬~3

さて肝心の横島と木乃香だが触れ合う相手の温もりや間近に感じる呼吸が、互いに心地よくもあり緊張する原因でもあった。

特に横島は自分を信じて委ねるような木乃香に、少し先のことを考えさせられてしまう。

元々横島は木乃香達を一生側に置くつもりなどなく、いずれそれぞれの人生を歩むだろうと考えている。

しかし仮にそんな時が来たら、自分は心から喜んで彼女達を見送れるのかと聞かれたら出来る自信が全くなかった。

本来の横島はそれほど人間が出来た人物ではないし、それは今も根本的には大差ないのだ。

ただ昔よりは少しだけ大人になったに過ぎない。

無論横島には一度は失った恋人や仲間達が居て技術的には再会が可能ではあるが、だからと言ってそれがすぐに出来るほど簡単なことではない。

出来ればこのまま木乃香達には側に居てほしいと、横島は本音ではそう思っている。


(まったく……)

相変わらず自分は身勝手だなと思う横島は理想と本音の狭間で揺れていた。

純粋に自分に好意を向けてくれる少女達を好き好んで手放したいはずもなく、かといって木乃香達が普通に人として幸せになるには自分では無理なのだから。


「横島さん、一つだけお願いがあるんや」

そのまましばらく無言のまま踊っていた二人だが、突然木乃香は真剣な面持ちで意を決したように口を開く。


「ん?」

「辛い時は辛いって言うてな。 ウチら子供かもしれへんけど絶対受け止めるから……」

その言葉に横島は返す言葉が出ないまま、ただただ流れるままに踊るしか出来ない。

何より目の前の木乃香は、今まで見たことがないほど真っ直ぐな瞳であった。

どこまでも純粋で真っ直ぐなその瞳には、今までの木乃香にはなかった絶対的にも見える強さがある。

この一言を言うのに木乃香がどれほど悩んだか横島は理解してないが、どれほどの決意を固めて口にしたかは確かに感じていた。


「………もう少し時間をくれないか?」

「ええよ」

横島にとってこれほど頭が真っ白になったのは本当に久しぶりであった。

それはあまりの衝撃にダンスが乱れそうになるほどであり、横島自身よく乱れなかったと冷や汗を流すほどである。

正直横島はそこまで気付かれてるとは思ってなかったし、今この時点でも誰にも明かすつもりはないのだ。

だが真っ直ぐなまま見つめる木乃香に横島はごまかすことは不可能だと悟り、今はただもう少し時間がほしいと答えるしか出来なかった。


「俺さ、昔からツメが甘いってよく怒られたんだよね」

「そうやね。 ウチもそう思うわ」

僅か十四才の少女に自分の心の一端を見抜かれていたことに、横島はかつてよく言われたツメが甘いという言葉を思い出す。

あれから随分と年月が過ぎて今の自分ならばツメが甘いことなどしないとの慢心があったのかもしれないとも思うが、それを抜きにしても自分のツメの甘さにはため息が出るようだった。


「でもな、ウチはそれでええと思う。 今までみたいに辛いことも楽しいこともみんなで分け合えばええと思うんよ」

そんななんとも言えない横島を見た木乃香は楽しそうに微笑みつつも、それでいいと告げて横島を受け止めると言わんばかりの表情を見せる。

それは本当の世界の厳しさを知らない幼さと純粋さ故の強さかもしれないが、横島はそんな木乃香に引き込まれるようだった。



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