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平和な日常~冬~2

一方女子寮では明日菜の部屋をビッケとクッキを連れた桜子が訪れていた。


「ごめんね、きょうのさんぽはおやすみなの」

毎日一緒に散歩に行くタマモが寮に来たので、桜子は二匹をタマモに会わせる為に部屋を訪れたらしい。

部屋に入るなり駆け出すビッケとクッキは、タマモの元にたどり着くと嬉しそうに声をあげる。

明日菜と桜子はその微笑ましい姿を見て思わず笑みを浮かべるが、タマモは何故か申し訳なさそうな表情で二匹に今日は散歩にいけないことを謝り出す。

どうやらビッケとクッキはこれから散歩に行くのだと勘違いしていたらしく、タマモに散歩に行こうと声をかけていたようなのだ。


「ふたりにもあしたおみやげあげるね」

にゃーと鳴き声をあげる二匹とタマモは普通に会話していき、今日はパーティーに行くから明日にはお土産を二匹にもあげると約束する。

まるで会話が成立するかのように二匹の鳴き声がタマモの言葉に反応する姿は少し不思議な光景だが、実のところ横島の店ではよくある光景であり珍しくもなんともない。


「何話してたの?」

「横島さんが来た頃の話よ。 あんたと当てた宝くじで店を借りて開店準備してる頃まで話したとこ」

そんな光景を眺めつつ時計を確認して準備を始めるのは何時頃がいいかと考え始める明日菜だったが、桜子はタマモと明日菜が二人で何を話していたのか尋ねていた。

最近ではすっかり違和感が無くなったタマモと明日菜の親しげな姿だが、桜子は相変わらず明日菜が小さな子供と仲良くしてる姿が信じられないらしい。


「アスナも変わったよね。 最近はいいんちょともあんまり派手なケンカしなくなったし……」

明日菜本人は今だに子供には苦手意識があるが、端から見るとそうは見えないほどタマモと明日菜の関係は自然だった。

そして最近の明日菜は昔に比べると大人になったと評判でもある。

以前は何かある事にあやかと取っ組み合いでケンカしていたが、最近はそこまでいかなくて口喧嘩程度で収まっていた。

まあ中学生にもなって取っ組み合いでケンカする二人が少し行き過ぎだったとも言えるが。


「そうかな。 あんまり自覚はないんだけど……。 でもね横島さんやタマちゃんを見てると、いろいろ考えちゃうからなのかも」

少しからかうように変わったと言い切る桜子に、明日菜は複雑そうな表情を見せつつも周りからそう見える理由には心当たりがあった。

二学期に入ってから明日菜は変わったとか大人になったと周りから言われる機会が時々あったが、その訳は成績の向上なんかももちろん無関係ではない。

そして何より横島やタマモと一緒に居るようになってから、明日菜自身がいろいろ考える機会が増えたことが変わったと言われる一番の原因でもある。


「横島さん達と一緒に居るとバカだって言われてたことも、あんまり気になんなくなったのよね。 それに高畑先生ときちんと向き合えるようになったのも、横島さんとタマちゃんのおかげなんだよね」

つい先程まで横島の昔話をしていたせいか少し感慨深げな明日菜だったが、変わったと言われるきっかけが横島との出会いなのだとは自覚はあった。


成績が上がり多少なりとも頑張ればやれる手応えは感じているし、何より周りの反応が驚くほど変わった。

加えて本人は自覚してないが両親が居ないことや過去の記憶がないことへの寂しさや不安が、横島達と一緒に居てからほとんど感じなくなったことも非常に大きいと言える。

そして横島がタマモという血の繋がらない子供を育て始めた姿は、明日菜にとって過去の高畑との生活を改めて考えさせられる原因になっていた。

まあ高畑は横島ほど器用ではなかったが、それでも横島とタマモの関係を見てると過去の高畑を思い出すことが時々ある。


「マスターはアスナのことよく理解してるんだよ」

どこか昔を思い出すように自身のことを素直に語る明日菜の姿は、かつてならば有り得ないものだった。

ただ桜子には横島が明日菜の悩みや不安を理解していたのだと思えてならない。

無論それには明確な根拠はないが、桜子には自身の勘が正しいとの自信がある。

それは横島が霊感と呼ぶ能力の片鱗なのだが、桜子は相変わらず自覚はなかった。



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