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ある家族の物語

そこはある地方都市の普通の一軒家だった

特に立派な訳でもなく何処にでもある普通の一軒家だが、狭い庭には花壇が作られて綺麗な花が咲いている

一軒家の主の男性は疲れた表情で帰宅すると、郵便受けの郵便物に目を通す


《私たち結婚しました》

請求書やら広告の郵便物の中に一枚だけハガキがあった

裏には幸せそうな男女の写真があり、結婚を知らせるハガキである


「美神さん結婚したんだ……」

写真の女性はおよそ20年前のバイト先の上司だった

かつての憧れの人の結婚に、その男は懐かしそうに写真を見つめる

いろいろあり離れた今も、男性にとっては特別な女性だった


「あら、未練があるの?」

僅かに感情に浸っていた男性の後ろにはショートボブの知的な女性がいる

40才に差し掛かった彼女は、年相応の色気と笑顔で男性に冷たい笑みを投げかける


「そんなんじゃねえよ。 ただ……、あの頃が懐かしく感じる年になったんだなって思ってさ」

男性も40前後の年齢らしく、昔の若々しさよりは渋みがました中年に差し掛かっていた

女性の言葉に少し苦笑いを浮かべた男性は、写真を女性に見せて昔を懐かしむ


「相手の男性は普通の一般人なのね。 世界で最高の男じゃなきゃ結婚しないなんて意地張ってたのに……」

「美神さんにとっては最高の男なんだろうな」

あの激動の戦いがとても懐かしくなるほど、年をとったと二人は感慨深げに写真に見入ってしまう

今は一般人となった二人にとって、令子は遠い世界に住む住人のようだった


「あなたも霊能力さえ失わなかったら、今頃はお金持ちの世界的なGSだったのにね」

「そっか? 俺は金も地位も名声もいらねえよ。 失った力以上のモノが手に入ったしな」

かつて奇跡とも呼ばれた男性の霊能力を思い出し、女性は僅かに申し訳なさそうな表情を浮かべる

しかし男性はそれ以上の大切なモノを見つめ、満足しているようだった


「パパ! ママ! 早くご飯にしようよ!!」

「お腹空いた~」

二人の周りでは中学生くらいの男の子と小学高学年くらいの女の子が、お腹空いたと騒いでいる

男の子は男性の若い頃にそっくりで、女の子は女性を若くすればそっくりだろう


「はいはい、今日は焼肉にしましょうね」

女性が子供達を連れて一足先に家に入ると、男性は静かに空を見上げた


「美神さん、結婚おめでとう」

その言葉を素直に言えるようになった自分に、男性は思わず笑ってしまい写真を懐にしまい込む


「パパー! 早くしないとご飯無くなっちゃうよ~!」

家からこぼれる暖かい光と賑やかな声に、男性は疲れも吹っ飛んだ様子で嬉しそうに家の中に急いでいく





それはかつて英雄と呼ばれた少年が起こした最後の奇跡だった

自らの奇跡の能力と引き換えに少年は愛する者を取り戻していたのだ

ただの人に戻った少年と、少年が全てと引き換えに取り戻した少女は普通の家庭を持ち普通に生きている


そんな未来のひと時の物語……



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