その一

「はい、来た依頼はそうなんですが…」

魔鈴は苦笑いして小鳩を見た


「私、貧ちゃんと離れたくないんです。 貧ちゃんは生まれた時から一緒だった家族ですから…」

小鳩はニッコリと笑って横島に話した

「小鳩~」

貧乏神は感動をして泣いていた…


横島は魔鈴の隣に座り、依頼書を見て本格的に話を進めようとした


「貧乏神を退治するのは、うちの事務所なら可能なんだ… ただ、貧乏神とずっと一緒に居るのは難しい… 見たところそのままでも、後2~3年で貧乏神から解放されると思うが…」

横島は貧乏神を見ながら説明した


実際貧乏神の除霊は今の横島には可能だった


横島には奇跡の力…

文珠があるのだから…

小鳩の家と貧乏神の『縁』を文珠で切り離して、貧乏神を退治するのは可能だった


が…

やはり小鳩は望まなかった…


「皆さんの気持ちはありがたいですが… 後2~3年でも、貧ちゃんと一緒に居たいですから」

小鳩は笑顔を見せて、貧乏神の除霊を断った


横島と魔鈴は顔を見合わせて、苦笑いした


貧乏神にとりつかれて、こんなに純粋な人は居ないだろうと…


「私… 貧乏神にとりつかれてるせいで、友達も離れていきました。 近づく人は騙す人ばかり… でも、中にはいい人もいるんです。 私のこと本当に心配してくれる人も… 私はそんな人に出会えたのを感謝してます。 貧ちゃんといれば、金運は無くなりますが、もっと大切なモノをたくさん教えてくれました」


小鳩は優しい笑顔で貧乏神を見ていた


「小鳩~! わいは… わいは…」

貧乏神は小鳩にすがりついて、涙を流していた


長い年月を生きた貧乏神

嫌われることはあっても好かれることはない…


貧乏神はこんな優しい言葉をかけられたのは初めてだった……


「そこまで覚悟があるなら、ずっと一緒にいる方法がある…」

横島は真剣な表情で小鳩に話しかけた


「本当ですか!?」

小鳩は嬉しそうに横島に聞いた


「あんさん… まさか… 試練をやらせる気か!! あれはダメや! 失敗すれば大変なことになる!」

貧乏神は突然顔色を変えて、横島に怒鳴りだした


「彼女ほどあの試練に最適な人物は居ないと思いますよ?」

魔鈴は笑顔で貧乏神に話しかけた


「それはわかってる! せやけど、もしもの事を考えたら…」

貧乏神は険しい表情で下を向いてしまった


「貧ちゃん、何か知ってるの? ずっと一緒に居れる方法を… 私達ずっと一緒に頑張ってきたじゃない。 貧乏でもいいから離れたくないわ! 家族じゃない…」

小鳩は険しい表情の貧乏神を見て真剣に話していた


「小鳩……」

貧乏神は迷っていた……

小鳩なら試練を超えられる可能性が高い


試練を超えれば、福の神としてずっと一緒に居れる…


だが、後2~3年で自分は年季が明けて離れるのだ…


わざわざ危険を犯す試練を小鳩に与えたくなかった


貧乏神もまた、小鳩を大切に思っていた


本来なら試練を望む者を拒むなどしないのだ…



横島と魔鈴は二人を優しく見守っていた…


横島は知っていたが、二人の絆はかなり深い


本当の家族のように…

貧乏神ととりつかれた人間なのに…


魔鈴はそんな小鳩と貧乏神を見て、嬉しい気持ちになっていた


魔鈴も使い魔の黒猫を家族のように思っていた


なんだか似てる気がした……



貧乏神は決心したようにため息をついた

そして渋々、首から下げた、財布のような物を開けてみせた…

中は宇宙のような超空間が広がっていた


「こん中は超空間や。 中に入った者には試練が与えられる… 試練に勝てば、貧乏神の呪いは消えて、ずっと一緒に居ることが出来る… だが… 失敗すれば、永久に貧乏神の呪いの影響を受ける…」

貧乏神は険しい表情で説明していた


「どうして今まで言わなかったの?」

小鳩は不思議そうに貧乏神を見つめた


「失敗すれば、永久に貧乏神にとりつかれる… そをな危ない橋を小鳩に渡らす訳にはいかんのや…」

貧乏神は小鳩を心配するように話していた


「貧ちゃん… でも、これを受ければずっと一緒に居れるのよね? 貧乏かどうかは気にしないわ!」

小鳩は貧乏神の手を握りしめ、嬉しそうに話した


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