その一

横島達は寺に入って人を探した

「ごめんくださ~い」

横島は声をだして人を探した


「は~い。 どちらさまですか? 住職は今少し出かけてますが…」

現れた人に横島も魔鈴もマリアも驚いた

「おキヌちゃん!!」

横島はかぶり物を脱いで顔を見せた

横島の顔を見たおキヌは驚き声が出なかった…


「そ… そんな… よこしま…さん…!?」

おキヌの瞳は涙で溢れ出していた

小さく不安そうな声だが、確かに横島達には届いていた


おキヌは信じられなかった

ここに現れるはずの無い人がいた…


自分を300年の孤独から救ってくれた人…


もう一度生きるチャンスをくれた人…


そして……


一番大好きな人……



横島は震えて泣きそうなおキヌに優しく微笑んだ

「俺だよ。 横島忠夫だよ。 助けに来たんだ…」


横島の優しい笑顔と声に

おキヌは震えが止まらなかった


おキヌは震えながらゆっくり横島に歩み寄る


おキヌは目の前の横島が夢か幻で消えてしまうのが恐かった……


この時代に彼が居るのはありえなかった


おキヌはゆっくり横島に触れていく…


手の温もりも…


体の大きさも同じだった…


幽霊だった自分にいつも優しくしてくれた横島と同じだった…


「あ… あ… 横島さ~ん!!! うぇ~ん……」


おキヌは震えながら横島に抱きついた

そうして思いっきり泣いていた


横島は優しくおキヌの頭を撫でてあげた

「おキヌちゃん、無事で良かった… 良かった…」

横島は嬉しそうに微笑んだ

「横島さん! 会いたかった! 会いたかった!」

おキヌは緊張の糸が切れたのか思いっきり横島に叫んで泣いていた


魔鈴とマリアもかぶり物をとり、そんな二人を暖かく見つめていた


「もう大丈夫だよ。 帰ろう。 俺達の時代に…」


横島は泣き続けるおキヌに優しく語りかけた


おキヌは時間が過ぎるのも気にせず泣き続けた


しばらくしておキヌはやっと落ち着いて、横島から離れた


「横島さん! 私… 思い出したんです! 全部覚えてます! 横島さんに記憶が戻ったのを教えに、会いに行こうとしていたら、美神さんと一緒に過去に飛ばされてしまって…」

おキヌは少し興奮しながら横島に話した

「記憶が戻ったのか!? 良かったな~」

横島は嬉しそうに話した


おキヌはここで、魔鈴とマリアに気がついた

「魔鈴さん! マリア! 二人も助けに来てくれたんですね! ありがとうございます」


おキヌは魔鈴とマリアにも抱きついて再会を喜んだ


「どうやら、迎えが来たようじゃな…」

横島は突然後ろから声をかけられて驚いた


今の横島達に気づかれないで、こんなに接近されるなど久しぶりだった…


それは寺の住職だった


横島達が気がつかなかったのは、住職に邪気や殺気が無かったのが大きいが…


それを除いても住職の隠れた実力を知るには十分だった…


住職は驚いたような横島を見て、満足そうに笑うと横島達を中に案内した


「良かったの… おキヌ殿。」

住職は80才を過ぎたような年だったが、かなり元気だった

「はい、住職。 ありがとうございます」


おキヌは住職に頭を深くさげた


横島は住職に静かに話しかけた

「おキヌちゃんがお世話になりました。 住職はさぞ、高名な方とお見受けしますが…?」

横島は住職がただ者ではないと感じて聞いていた

「ワシはもう隠居した身じゃよ… 昔は明智様の配下の武士じゃったがな…」

住職は笑顔で横島に答えた


横島も住職が悪い人間ではないと理解して微笑んで返した


「おキヌちゃん、それで… 美神さんは何処にいるんです?」

魔鈴は話が落ち着いた時を見計らって、おキヌに聞いた


「美神さんは… 安土に向かいました。」

おキヌは困ったように話した


そこで住職が口を開く

「美神殿は光秀様の元に向かわれた… 実は、光秀様はある敵と戦う準備をしております。 そのため、実力が確かな退魔師を密かに集めておりました。 美神殿はお金を求めておりましたので、それがしが紹介しました。」

住職は先ほどのような人の良さそうな顔から一変して、険しい表情で答えた

49/100ページ
スキ