その二

そして魔鈴の自宅ではシロが外で素振りをしており、タマモは室内でケイに文字を教えている

未来と違い基本的にやる事が無いシロとタマモは、日中ほとんど暇だったのだ


無論二人共修行はしているのだが、あまりやり過ぎると魔鈴が止めてしまう

二人はそれでも魔鈴達の隙を見つけては隠れて修行をしているが、横島と魔鈴は最近薄々気が付き初めているためになかなか修行の時間がとれなくなっている

それに同じく暇なケイが共に居る事が多いので、タマモとシロはケイに勉強を教えたり一緒に遊ぶ事も多かった


「だいぶ上手くなったわね。 次は算数にしようかしら」

ノートにひらがなを練習していたケイの文字はまだまだぎこちないが、それでも読める程度には上達している

何と言われるかドキドキしているケイを笑顔で褒めたタマモは、次に算数の勉強をさせていく


「妖怪も勉強するのね」

一見すると姉が弟に勉強を教えているような微笑ましい二人を、百合子は珍しそうに見つめていた

ケイの見た目は小学低学年くらいだから違和感は無いのだが、妖怪がひらがなや算数を勉強するとは思いもしなかったようである


「人間は妖怪を一括りにしちゃうけど、妖怪にも個性はあるしピンからキリまでいるわよ。 人間に友好的な妖怪も居れば、人間を憎む妖怪も居るもの」

「あんまり人間と変わらないのね~」

百合子はタマモの話を興味津々な様子で聞いていた

妖怪のイメージが昔話や都市伝説の噂話のレベルを出ない話しか知らない百合子にとっては、タマモの話は新鮮だったようである


「東京とかだと、結構妖怪やはぐれ魔族も居るわよ。 ほとんどが正体を隠して人間として生きてるけど…… 下手に山奥で生きるより人間に混じった方が安全だもの」

予想外に妖怪に興味を持つ百合子に、タマモは現代に生きる妖怪の状況を語っていく

妖怪と言えば田舎に住むイメージがあるが、近年は中途半端な田舎に妖怪が住む事はほとんどなかった

昔はそれなりに共存していた人間と妖怪だが、GSが普及した現代では害虫のような扱いを受ける事も少なくない

その為妖怪は、人間が全く来ない本当の山奥か都会かのどちらかに分かれる傾向がある

しかし人間の入らない土地など日本にはほとんど無いため、人間に化けれる妖怪は東京などの大都市圏に居る事も多い

田舎よりも人間関係が希薄であり少し変わった人間も多いため、下手な田舎より正体を隠せるのだ


「だから人間の街で暮らす妖怪は、字も読めるし勉強も出来るわよ。 人間のルールを知らないと命に関わるし……」

都会の妖怪は、下手な人間よりもずっと人間のルールを守って生きてる

人間は警察に捕まるだけだが、妖怪は問答無用で殺されるのだから当然だが


「妖怪がそんなに苦労してるなんて思わなかったわ」

タマモの語る妖怪の真実に、百合子は強い衝撃を受けていた

百合子自身OL時代には、妖怪が退治された話など普通に耳にしている

当時はそれが当然であり気にもしなかったが、妖怪側の視点で話を聞くと全く別の話に聞こえていた


「妖怪に理解を示してくれる人はたまに居るわよ。 でも守ってまでしてくれる人はそうは居ないわ。 そういう点では、私達は横島に本当に感謝してる。 出会った人が横島じゃなかったら、少なくとも私は殺されてたから……」

笑顔で語るタマモだが、その言葉は幼い見た目と不釣り合いなほど悲しみに満ちていた

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