その二

「いつの時代もその時の常識を越える存在は理解されないものじゃよ。 その点は横島もどこか同じかもしれん」

「忠夫が……!?」

カオスの真価に言葉が出ない百合子は、そのカオスが息子を認める発言をした事が信じられないようだ


「おぬしならば、いずれワシの言葉の意味がわかる日が来るじゃろう。 今は焦らずに見守ってやる事じゃな。 ただ一つ、横島には魔鈴が必要じゃ。 人の枠に収まらん横島を守り支える事が出来るのは、今は魔鈴だけじゃからな」

カオスとマリアは意味深な言葉を残して、研究室に戻っていく

普段の百合子ならば詳しく事情を聞き出すのだろうが、相手がカオスではそれも出来ない

リビングに一人残された百合子はそのまま言葉の意味を考えていくが、結局わからないまま部屋に戻ることになった



そして次の日横島が学校に行った後、百合子は家事をする魔鈴達を静かに見ていた


(歳の割には家事の手際がいいわね。 それにしても、改めて見ると不思議な関係だわ)

百合子の目の前では、魔鈴・美衣・タマモ・シロ・ケイ・マリアの六人が分担をして掃除や洗濯などをしている

特に決められた事と言うよりは、自然と一緒にやっている感じだ

最初に聞いた話から魔鈴が妖怪を保護して共同生活をしていると思っていた百合子だが、昨夜の寿司屋の頃から感じる印象はどちらかと言えば家族に近い気がした


(妖怪ってみんなこんな感じなのかしら?)

僅かな時間だが一緒に居たタマモ達の印象は、かなり良かった

妖怪と言えば人を襲ったり悪さをする印象が一般的なだけに、百合子は一般的常識との違いに驚きを感じている


(オカルトって本当にわからないわ)

未来ではタマモの存在が目立っていただけに妖怪に関しても調べていたが、この時代の百合子は妖怪に関してはノーマークだった

それだけ魔鈴とカオスの存在が目立っていた事もあるが、妖怪と一緒に住んでる事自体が常識では理解出来ない部分でもある


その後手早く家事を終わらせた魔鈴と美衣は事務所に行き、仕事に取り掛かっていた

百合子はこちらも見たかったのだが流石に部外者の自分がずっと付き纏う訳にもいかずに、自宅のリビングでテレビを見ている


(こうして居ると、まるで息子の家庭に遊びに来たおばあちゃんみたいね)

僅か半日一緒に居ただけだが、百合子の心境はだいふ変化をしていた

魔鈴達の印象も悪くないし、昨日カオスと話した事でだいぶ現状に安心出来ている

相変わらず何か秘密や隠し事の気配は感じるのだが、それ以上にカオスに対しての信頼得が高かった


(あれほどの人に会ったのは初めてだわ。 あれは天才なんて生温いわ)

正直、横島の事は聞きたい事や反論したい事も多少はあったのだが、何を言っても自分が納得してしまう答えが帰ってくるのはわかってる

思考や視野の次元が違い過ぎるのだ


(あの忠夫が、あんな凄い人に認められるなんてね)

子供の頃からの横島を思い出した百合子は、懐かしそうに微笑む

決して才能が無い訳でも出来ない訳でも無いのは、親である百合子が誰よりも理解していた

しかし以前の横島は、そんな才能を無駄にしていたのだから現状に驚きや戸惑いを感じるのは仕方ない事である


95/100ページ
スキ