その二

その頃、魔鈴宅には少し疲れた表情のカオスと大量の荷物を抱えたマリアが帰宅していた


「なかなかいい物が見つからんかったのう」

カオスは魔鈴宅のリビングに座って一息つくと、荷物から数点の岩石を取り出して鑑定を始める


「ドクター・カオス、夕食は寿司のようです」

「持って来てくれ、マリア」

カオスが岩石を鑑定する中、マリアは遅い夕食の支度をし始めた

支度と言っても魔鈴達が土産に持ち帰った寿司と、カオスの夕食に用意したスープなどを温めるだけであったが……



「夜分遅くまでご苦労様です。 私、忠夫の母の百合子です。 息子がいつもお世話になってます」

カオスが帰宅した音に気が付いた百合子は、さっそく挨拶をするためにリビングに来ていた

事前に調べた結果、百合子が最も判断に困っていたのがこのカオスの事である

名前と嘘か本当かわからない大まかな経歴しかわからなかったのだから、判断しろと言う方が無理だった


そんなカオスと初めて対面した百合子は表情にこそ表さないが、驚きを感じている

(見た目は普通の老人ね)

事前の情報では伝説的な話が多かっただけに、イメージと比べると普通の老人にしか見えない

まあ百合子は見た目だけで相手を判断するほど愚かでは無いし、年上のカオスに対しては当然のごとく低姿勢であるが


「わざわざ起きておられたのか? ワシはドクターカオスで、あっちがマリアじゃ」

魔鈴から百合子が来たことは連絡を受けていたカオスだったが、さすがに夜中まで起きて挨拶に来たのは意外だった


「始めまして、ミセス・横島。 マリアです」

カオスの夕食と百合子にお茶を運んで来たマリアは、少し笑顔を作り挨拶する

それほど表情豊かではないマリアだったが、初対面でもわかるくらいの笑顔に百合子は驚きを隠せない


「驚いたかね? マリアはワシの最高傑作じゃよ。 魂を持ち生きておる」

百合子の驚く表情にカオスは満足そうな笑みを浮かべている


(あの話が本当だったなんて……)

事前に調べたお伽話のような事が本当だった現実に、百合子は言葉もでない

正直百合子は、今の今までカオスに関しては噂が大きくなったのだろうと考えていた


千年以上生きて、魂を持つアンドロイドを作った伝説の人物

はっきり言って信じるべき点がまるでなかったのだ

しかしマリアを見た瞬間に、百合子は報告書が正しかったのだと理解していた


「凄いですね…… はっきり説明出来ませんが、ロボットとは違い生きてる温かみがある気がします」

それは百合子だから感じれた事だろう

霊能力は無いがかつては伝説とまで言われたOLだった百合子は、人を見る目は特に優れていた

彼女はマリアに人間と同じような感覚を覚えていたのだ


「初対面でマリアを理解する一般人も珍しいのう。 さすがは横島の母親か」

未来で知ってる相手とはいえ、感覚的にマリアが生きてると感じた感性にはカオスも感心してしまう

霊能力の無い者がマリアを本当に理解するなど、まずありえないのだから


(相変わらず頭のキレ以外も凄いのう)

カオスは驚きマリアを見つめる百合子に、ふと未来を思い出していた

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